第9回【冨山和彦×八田進二#3】”お飾り社外取締役”を選ぶ日本企業の「ガバナンス粉飾」
“説明”せずに“従う”に逃げる日本企業のガバナンス
八田 冨山さんは昨年2022年5月に日本取締役協会の会長に就任されました。2001年の設立以来、20年間会長を務めてきたオリックスの宮内義彦さん(シニア・チェアマン)からバトンを手渡されたわけですが、社外取締役の最大のミッションは何だと思われますか。
冨山 やはり、社長の任命に関与するということだと思いますね。会社の要諦はトップマネジメントが機能しているかどうか。執行のトップが機能しているかどうかを見極めて、機能するトップを任命するのが社外取締役の仕事の中で最も重要なものだと思います。
八田 私も全く同意見なんですが、そういう知見を持った人が社外取締役に選任されているものでしょうか。
冨山 そこは、まぁ、あんまりいないでしょうね。そんなこと本気でやりそうな人は、社外取締役になってくれなんて言われませんよ(笑)。
八田 でも、冨山さんは社外取締役に就任してほしいって結構頼まれているんじゃないですか?
冨山 いえいえ。私はトップの指名に関われないなら引き受けませんし、見るからに本気でやりそうでしょ? だから、あまり声はかからないですよ(笑)。

八田 危険人物と思われているのでしょうか(笑)。ただ、冨山さんはトップ選びにかける時間について、半年や1年じゃダメだとおっしゃっていますね。
冨山 どんな組織でもトップが最強の権限と最大の責任を負う人ですから、最も難しい人事です。時間をかけないと、人物を見極められません。
八田 そういうことを理解している社外取締役ってどのくらいいるのでしょうか。指名委員会の任期も1年でしょう? 実際には再任されて何年もやるわけでしょうが……。
冨山 逆説的ですが、指名委員会はトップの解任請求もできるわけですから、会社にとって社外取締役をどうやって選ぶかはとても重要です。
八田 ただ、二言目には「社外取締役に値する人材がいない」と言われる。社外取締役はこうあるべき、という厳しいことを話すと、「八田さん、そんなこと言ってたら誰も引き受けなくなりますよ」って言われてしまいます。
冨山 いや、それでいなくなるなり手って、社外取締役の役割を全うする気がない、小遣い稼ぎでやっているだけの人たちなんだから、八田先生のように厳しく言うのがちょうどいいんですよ。そもそも、本気で探してない会社というよりは、本気で職務を全うしようとするような人を内心嫌がっている会社が多すぎる。
本気にならないでくれて、それなりに見栄えのする肩書で……そんな条件で探すから60歳以上のおじいさんばっかりになるんです。30~40歳代に広げるだけで、経営の経験があって、社外取締役の職務を全うできる優秀な人材が男女を問わず、たくさんいます。世界に目を向ければもっと人材はいますよ。
八田 何社も兼務している人に、さらに自社の社外取締役を頼みに行く会社って、そのあたりのホンネが透けて見えますね。
冨山 そういう人には会社の事務局側が「ご迷惑はおかけしませんから」とか言って頼む。受ける方も「何かあっても責任はとりませんよ」なんて言っている。でも、それって会社の仕組みをまるで分かっていないってことでしょう? 会社法はそんなこと、許していないんだから。経営者OBなのに、そういうことを言う人って結構いますよね。そんな人を社外取締役にして、形だけ整えたフリするの、私は「ガバナンス粉飾」って呼んでます。
八田 そういえば、西武鉄道の有価証券虚偽記載(2004年)の際、堤義明さんが「西武鉄道がどうして上場しているのか、分からない」って言っていましたね。上場会社のトップの発言とは思えない発言でした。
冨山 今なら、そういう経営者がいる会社はアクティビストに狙われるんですがね。アクティビストは経営者にスキがあるところを狙ってくるわけですから。
八田 逆に狙われたらショック療法になるんじゃないですか。
冨山 私もそう思いますね。
八田 ところで、ダイバーシティの問題についてはどうお考えですか。女性役員の人数を増やさないといけないというわけで、これまたみんな横並びで学者やアナリスト、あるいは元アナウンサーを起用したりしていますね。男女間での逆差別になっていませんか。
冨山 日本はジェンダーのインバランスが酷すぎるから、女性にばかり光が当たるわけですが、求められているのは多様性なんですよね。だから、女性比率が低くても、ウチの取締役はこんなに多様性がありますって説明ができればいいのに。そう思いますね。

八田 「コンプライ・オア・エクスプレイン」と言っても、説明(エクスプレイン)せずに遵守(コンプライ)に逃げてしまう。いかにも日本的ですよね。コーポレートガバナンス・コードで社外取締役を必置とするかどうかの議論が浮上した時は、経団連が猛反対したでしょ。人材がいないのに、コードには従えないと。でも、フタを開けてみたらコンプライ率は9割ですよ。イギリスはせいぜい5割とか6割とかでしょう。横並び意識が強い日本ならではの現象ですね。
冨山 日本のガバナンスは形式と実質にものすごくギャップがあります。ただ、ギャップがあるという議論が出ることはすごく良いことだと思います。議論があるということは、ギャップを埋めようとする動きが出てくる。覚悟と意志を持った人を社外取締役に起用する会社が増えてくれば、ガバナンス粉飾は自ずと減っていくと思います。
八田 大変参考になりました。どうもありがとうございました。
(了)
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