「数字は嘘言わぬ」を捻じ曲げた議員立法
これは会計の世界では考えられない例外事項である。会計では「総額主義の原則」が大前提で、「金額が少ないから記載しなくてよし」「無視してよし」とはならない。むしろ、勝手に一部の取引を帳簿外にしたり、隠蔽したりすることそれ自体が、不正と見なされるのである。
しかも今回の政治資金の場合、カネの流れを追跡されないよう痕跡を残さないために政治資金報告書に不記載とし、かなりまとまった額であっても、あえて現金でやり取りしていたという。例えば北海道選出で、今回の件で内閣府副大臣を辞任した安部派の堀井学衆院議員は、1000万円を超えるキックバックを派閥から受けていたが、派閥事務所から現金で受け取り、それを秘書が北海道の事務所まで運んでいたという。
つまり、5年間で1000万円にものぼる額であるにもかかわらず、派閥からは銀行振り込みではなく現金の受け渡しによってキックバックされていたというのだ。現金を持ち運ぶのにはリスクが伴うが、にもかかわらず「現金で」と指示を出していたこと自体、「足がつかないようにしなければならない資金である」ことを自ら露呈していると言える。
これは単純な不記載やミスと同じに考えるべきではないだろう。そのようにして「足がつかないように」得た資金は、当然、使われる際も「足がつかないように」ということになるのだ。しかも、うっかりミスではなく、長期にわたって繰り返し、周到に組織的に行われてきたことでもあり、会計処理本来のあるべき姿を捻じ曲げていると言っても過言ではない。重大な悪質性を認めるほかないだろう。
会計を専門領域とする私がよく紹介する箴言(しんげん)に、こんな一文がある。
「心せよ、数字は嘘を言わぬもの」
これは戦後の日本の会計監査制度の礎を作った太田哲三博士(1889~1970年、一橋大学名誉教授、日本公認会計士協会初代会長)の言葉である。数字というと無味乾燥な印象を受けるかもしれないが、数字が物語るのは事実そのものである。ゆえに、会計は隠蔽や漏れがないように、あるがままの事実を記録しなければならない。しかし、政治資金規正法は“抜け穴”が残るようにルール策定が行われてきたのが現実だ。しかも、それは議員立法によってである。
本来であれば、立法府の議員は自主規制の領域で、最も高度なレベルで倫理観や道徳観を持って法律を策定し、自ら遵守しなければならない。ところが、あえてザル法のまま放置し、都合のいいように制度を悪用してきたのが実態……少なくとも今、多くの国民がそのように認識しているのではないか。
これは派閥を解消すればいいという問題ではないし、自民党だけの問題ではない。自民党は派閥を解消し、党内に設けた「政治刷新本部」の議論で政治資金規正法の在り方を考えていくという。だが、これは集団万引きに手を染めていた人間が、万引きを取り締まる法を考えさせるに等しい。そう言えば、言い過ぎだろうか。
政治は真にアカウンタビリティを担保できる仕組みが作れるのか、今度こそ注視したい。
(#15に続く)