内部監査部門の地位向上、権限強化を志向して……
上で述べた内部監査部門の状況は、公認会計士として大手監査法人での監査経験を経て、大学で会計実務を教えたのち、証券取引等監視委員会の委員となった浜田康氏の『市場の守り人――証券取引等監視委員会の使命』(同文館出版、2021年6月)で描かれた、監視委が与えられた権限と限られたリソースとで奮闘しながら、市場のゲートキーパーに相応しい、権限を希求する姿勢を彷彿させる(筆者は『会計・監査ジャーナル』21年12月号に書評を寄稿した)。
米国では、独立した組織であり強大な権限を有するSECが、資本市場における市場阻害行為・不正行為を早期に発見し迅速に是正するために、さまざまなエンフォースメント(法執行)を機動的に駆使してワークしている。
そんな米国に比べ、日本の監視委は、府省大臣などの指揮や監督を受けず、独立して権限を行使する公正取引委員会と異なり、独立性はなく、法律の定める所掌事務の範囲内で設置された組織であり、極めて限られたエンフォースメント手段で市場阻害・不正行為に立ち向かわなければならない。
限られた人員・ツールを用いて稼働しながら、浜田氏は何度も「監視委にもっと力を」という言葉を繰り返す。この言葉は、監視委が「市場の守り人」(資本市場におけるゲートキーパー)としての役割を一層果すことを願う浜田氏の切実な願いが込められている。
しかし、その切なる願いはいまだ実現されていない。運用などで達成することができる範囲は限られており、最終的には監視委を公取委のような「(国家行政組織法上の)3条委員会」にする他はないのかもしれない。
同じことは、内部監査部門にも当てはまり、運用面で対処できることは相当限られている可能性が高い。
その状況下で、昨年2024年に2つの重要な報告書が公表されたことが注目される。
ひとつは、公益財団法人日本内部監査研究所が24年7月に公表した『価値創造に貢献する内部監査――戦略に貢献する内部監査への進化と提言』であり、もうひとつは、金融庁が同年9月に公表した「金融機関の内部監査の高度化に向けたモニタリングレポート(2024)」である。
内部監査研究所が公表した報告書は、経営環境の変化に伴い、内部監査を経営機能としての改革が必要であり、価値創造プロセスに内部監査が関与することを謳い、内部監査をコンプライアンス監査(ステージ1)からリスクベース監査(ステージ2)、戦略に貢献する監査(ステージ3)に変化することを説いていて、理念的には首肯できる面も多い。
しかし、内部監査部門の設計を企業の自主性に委ねる現状を前提とする限り、同報告書が提唱するステージ3を目指すことができるのは、メガバンクと事業会社のうちプライム市場上場企業のトップ・オブ・トップ数百社程度であろう。
内部監査のハードロー化、権限等の規定化が進まず、内部監査の“体幹”がしっかりしていない(ハードローでの規律の定めがない)状態では、戦略に貢献する監査を志向して、リスクベース監査のリソースを減らすといった本末転倒の事態も生じかねない。
同報告書のエッセンスを、どこまで自社の内部監査部門に取り入れるか、あるいは、取り入れることが却ってコンプライアンス監査、リスクベース監査を脆弱化させる要因とならないのか……各企業は冷静に判断することが要請される。
(隔週木曜日連載、#12は 2月20日公開予定)