企業の守り人「内部監査」にもっと力を…『市場の守り人』証券監視委員の渇望との相似性【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#11】

ガバナンスの重要な担い手ながら注目されない「内部監査部門」
企業不祥事が発生した場合、メディアの厳しい批判の矛先が向けられるのは、取締役(社外取締役を含む)、監査役(監査委員、監査等委員も含む)である。取締役、監査役等は職務を果たしていたのかという厳しい批判や視線を浴びる。
しかし、「内部監査は何をしていたのか!?」という批判を受けることはほとんどない。株主総会でも取締役や監査役がひな壇に並んで株主から質問を受けることはあっても、内部監査部門が注目を集めることは皆無と言っていい。
そもそも、企業内において内部監査とはどのような役割を果たす部門なのか――。そんな基本的な大前提すら、あまり知られていないのではないか。
上場会社を中心として有価証券報告書等を提出する発行会社等は、資本市場においてタイムリーにかつ公正な情報開示ができるよう、社内で財務、非財務に関する情報を収集・分析し、内部統制(会計・監査を含む金融商品取引法の内部統制)をきちんと備えることが求められている。
内部監査部門は、このような内部統制、ひいてはコーポレートガバナンスの重要な担い手のひとつである。「企業内容等の開示に関する内閣府令」等が改正され、2023年3月期の有報より、コーポレートガバナンスに関する開示の一環として、「デュアルレポーティング」の有無を含む、内部監査の実効性を確保するための取り組みを分かりやすく、具体的に開示することが求められるようになっている。
有報で内部監査についてどのように記載がされるかというと、有報の《様式3》で次のように記載すべきことが書かれている(有価証券届出書の様式2を参照)。
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(56) 監査の状況
b 提出会社が上場会社等である場合には、内部監査の状況等について、次のとおり記載すること。
⒜ 内部監査の組織、人員及び手続について、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。
⒝ 内部監査、監査役監査及び会計監査の相互連携並びにこれらの監査と内部統制部門との関係について、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。
⒞ 内部監査の実効性を確保するための取組(内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会並びに監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組みの有無を含む。cにおいて同じ。)について、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。
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米国と日本であまりに異なる「内部監査」の位置づけと権限
内部監査部門は、最高経営責任者(CEO)が主導する経営目標・中長期の経営計画や、実際に推進している具体的な事情等につき、ガバナンスに関する状況も含めて、監査し、各々のプロセスが目標達成のために有効・効率的に仕組みになっているかを適正に評価する。
このことによって、内部統制の整備や運営に係る経営者の意思決定や判断を支援する重要な機能を果たすことが期待されている。有報に記載されるようになったのも、取締役会に責任を果たすという観点から内部監査の役割が一層重要視されるようなったからである。
しかし、内部監査が、内部統制、ひいてはコーポレートガバナンスの重要な担い手であるにもかかわらず、会社法(施行規則であるを含む)では内部監査についての規定の定めはなく、金融商品取引法でも情報開示や内部統制の場面でしか内部監査は登場せず(ただし、「コーポレートガバナンス・コード」=CGコードの補充原則4ー13③では触れられている)、内部監査を正面からその役割等も含め、語るハードローは存在していない。そのため、株主や投資家、さらにはメディアにとっても、内部監査が注目されることはほとんどない。
その一方で、企業不祥事についての第三者委員会のほとんどの調査報告書には、不祥事が生じた原因として、内部監査が機能していなかったという文言が、あたかも「ボイラープレート条項」(テンプレート)のように登場している。
内部監査について、米国ではどのような定めになっているのかを見てみよう。
ニューヨーク証券取引所(NYSE)の上場企業では、米国証券取引委員会(SEC)がコーポレートガバナンス政策を推進する一環として取引所規則で「監査委員会」の設置を義務化している。また、設置が義務化された監視委員会が職務を遂行するために不可欠な内部監査部門を持つことも義務化されている。
内部監査部門を設置し、監視委員会が職務を遂行するために不可欠な役割などについては、内部監査の国際的組織である「内部監査人協会」(IIA)が国際基準(IPPF)を定め、NYSEに上場する企業の内部監査は職務上、取締役会または監査委員会への報告ルートと、取締役会または監査委員会の指揮・命令を受ける組織として定着・浸透している。
このように、経営者からの独立性を確保するためのさまざまな措置等の定めがあることによって、ガバナンスの役割を発揮できる仕組みが構築されている。
実際、IIAと内部監査財団(IAF)が2022年に実施してまとめたグローバルリサーチレポートでも、北米における内部監査部門の独立性、予算(資金)の確保等がそれなりに整っている実態であることが分かる。
これに対して、日本では、内部監査はCGコードや金商法の情報開示等の箇所でしか触れられておらず、職務内容、権限、義務等についてはハードローで明確に定められていない。
このため、各企業において内部監査は自主的に設けられているに過ぎず、内部監査が果たす業務内容、役割は各企業の裁量に委ねられて、準拠性監査(遵守すべき法令や社内規程等の規準に照らして、業務等が規程等に則っている)、リスクベース監査(リスクを評価し、その結果に基づいて監査計画を策定する手法)、経営監査(企業の経営活動の効率性や業績、成果を評価・指導する監査)など、企業によって内部監査のレベルはまちまちというのが実情だ。
また、内部監査は組織上、CEOに直属し、報告ルートも主にCEOへの報告となっている実例が多く、経営者が主導するトップダウン型の経営目標等の達成度を測定するために、中立的な立場から助言・勧告・または支援することも求められている。
内部監査部門が、経営トップだけでなく取締役会または監査役等(会)にも直接報告を行うルートも設ける「デュアルレポートライン」を導入する企業もあるが、報告ルートのみならず、併せて内部監査責任者の任命の承認権、内部監査部門の予算、人事評価等を経営者のみに委ねない措置を講じない限り、経営者からの独立性は発揮できず、そこまで徹底した仕組みを構築することは極めて困難である。
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