「見えないゴリラ」を見るためのリスクコントロール【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#6】

企業不祥事と「見えないゴリラ」

「見えないゴリラ」について、私自身、「企業不祥事」の文脈で業務上、過去に2回ほど触れたことがある。

ひとつは、巨額な架空売上(上場直前期における売上高の97%超が架空計上)を計上して大規模な粉飾決算を繰り返した半導体製造装置メーカー、エフオーアイ(FOI)のケースである。

同社は監査人による会計監査、引受証券会社による引受審査、取引所による上場審査の三重のチェックをすべてすり抜け、虚偽記載のある有価証券届出書を提出して2009年11月、東証マザーズ市場(当時)に上場した。しかし直後の10年5月、粉飾決算が発覚、1年も持たずに上場廃止、破産手続き開始となったため、上場に関わった多様な関係者が投資家から損害賠償を請求された(FOIは2014年9月、東京地裁から破産手続き決了決定を受け、法人格が消滅した)。

ところがこの事件で東京高裁は、引受証券会社には、不正の兆候(危険信号:Redflag)を見逃した責任があるとの投資家の主張を認めず、責任を否定した。

私は、「見えないゴリラ」を引用して、引受証券会社の担当者にも選択的認知が働き、Redflagを見落としたり、過小評価したりする可能性があったとして、FOIの最初の引受審査の時点での説明が、上場手続き時点で論理的に破綻していたのに、引受証券会社はそれを見過ごしたことなどから責任は免れないと、朝日新聞の『法と経済のジャーナル』の解説記事と、慶応義塾大学の判例研究『法学研究』で批判した。

事実、最高裁は東京高裁の判決を破棄し差戻した。

もうひとつは、株主総会の議決権に関して会社法違反等の疑いがある不祥事事案が発生した際、所轄官庁から、独立した外部弁護士を入れて事実関係の解明・原因分析・再発防止策等を報告するよう指示を受けた企業からの要請で、同社および関係会社の法務・コンプライアンス部門と連携して調査の実施・報告書の作成等に関与した時である。

現場にヒアリングを実施すると、特段、違和感なく業務に従事していたと説明する経営幹部・社員がいる一方、他部署あるいは他社から配属された社員には、当初、違和感を抱いたものの、当該部門で行われてきた確立したやり方であるとの説明を受け、部内の雰囲気から、特にその違和感を他の従業員や所管する役員と共有せずに従っていたと説明する者もいた。

後者の回答をした社員はコンダクト・リスク(本連載#2参照)は認知していたけれど、同調圧力に声を上げることができなかったと理解できる。また、前者の回答をした社員は、「見えないゴリラ」に囚われていたと説明できる。

ヒアリングを実施した後、私は、「見えないゴリラ」の問題が原因であることを法務・コンプライアンス部門に伝え、同社では、聞き慣れない「見えないゴリラ」という用語がしばらくの間、ブームになっていたと後から聞いた。