「見えないゴリラ」を見るためのリスクコントロール【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#6】
「見えないゴリラ」の陥穽に嵌まらない“2つの具体例”
「見えないゴリラ」(選択的認知)に留意が必要な局面を2つ取り上げたい。
第1に、取締役会における社外取締役が監視監督の職務を果たす場面で、「見えないゴリラ」を意識して自律的な対処が必要となる。すなわち、モニタリング志向の取締役会では、経営の監督(戦略的な意思決定、業績評価等)に焦点を当てて大局的見地・マクロ的な視点での議論に集中することが肝要である。
なお、経済産業省策定「社外取締役ガイドライン」(2020年7月)の《心得1》では、過度に細かな業務執行に立ち入らないとしている。
しかしそれと同時に、内部統制システムが実効的に機能しているかを監視監督し、不正の兆候を示すアラート情報が検知されていないかをミクロ的な視点で注視することも、社外取の重要な職務である。
このような対照的な監視監督を同時並行して行うには、それぞれ異なる方向・レベル感での職務であることを自身に強く意識付けして、選択的認知が働かないよう制御しつつ、対処するようリソースの配分も含めて試行錯誤しながら習得していくほかはない。
第2に、インターネット上の情報やSNSでの情報は玉石混交であり、選択的認知が働かないように強く意識しながら注意深く取捨選択や評価がされるべきである。
ウェブ情報やSNSは、利用者が見たいと思うコンテンツを自ら積極的・能動的に見に行くことが特徴的である。また、デバイスはスマートフォンが圧倒的に多く、時間をかけて精読し、批判的に検討する姿勢ではなく、見たいものを探索する視聴行動に比重が移っている。
多面的な情報を収集しようと注意を払わない限り、自分が見たいコンテンツ以外は「見えないゴリラ」となり、目に入らないという事態をもたらす。しかも、それらの情報には、十分なファクトチェックを伴わず、発信者の信条・思い込みによるものや、ページビュー(閲覧数、PV)を増加させるため、意図的に炎上させるような内容を掲げるものも少なからず存在する。
読者諸氏も、選択的認知のバイアスを排除し、多面的な情報の収集・分析、変化に即応できるようなルーティンの工夫やトレーニングによるスキルを習得することを期待したい。「見えないゴリラ」はあなたの真横にいるかもしれない、いや、鏡に映ったあなた自身がゴリラの着ぐるみを着ているかも知れないのだから。
(隔週連載、#7は12月12日公開予定)
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