【ACFE JAPAN岡田理事長インタビュー後編】不正対策で公認不正検査士が果たす役割
岡田譲治:日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)理事長
(インタビュー前編から続く)昨年、『監査役の矜持――曲突徙薪(きょくとつししん)に恩沢なく』(同文館出版、朝日新聞記者の加藤裕則氏との共著)を上梓した日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)理事長の岡田譲治氏。監査役およびリスク管理部門の実際とあるべき姿についての前編に引き続き、後を絶たない企業不正、監査役の不作為、そして、不正・不祥事案における公認不正検査士(CFE)の役割などについて語ってもらった。インタビュー後編。
日本企業で不祥事が相次ぐ“温床”とは
――最近でもトヨタグループ各社の品質不正問題など、大企業の不祥事が後を絶ちません。今の状況について、どのようにご覧になっていますか。
三井物産の常勤監査役だった2017年に公益社団法人日本監査役協会の会長になり、翌18年と19年の4月に開催した全国会議では「企業不正」をテーマに取り上げました。ただ、私が会長を辞めた後もまた、全国会議で同じような問題を取り上げています。企業は変われども、今もなお名の知られた大企業が次々と不正を引き起こしている状況ですね。
不正や不祥事の中身は多種多様ですが、最近では特に品質不正に注目が集まっています。日本を代表するものづくり企業で品質不正がなぜ絶え間なく起こるのか。そのことを考える時、私は背景に日本企業の特徴である「前例踏襲」主義があるのではないかと思っています。初めは誰かがイレギュラーな形で不正を犯したものの、それが社内で問題視されないと、不正自体が前例として長く踏襲されるのではないかという問題意識です。
これと関連しますが、日本企業では、専門性の高い部門では人材にあまり入れ替わりがないという環境があります。異動がなく、ひとつのポストにベテランの担当者を張りつけっ放しにする。そういう状況が続くと、外からの意見を聞かなくなるし、専門外の人は意見を言えなくなります。ごく稀に新任の人が「何かこれ、おかしいのではないですか?」と言っても、黙殺されてしまうのです。結果、そんな外から来た人が外部へ内部告発して初めて不正が表に出る――そのようなケースが往々にしてあるのだと思います。
――日本企業、特に製造業の構造的な問題でしょうか?
企業の構造で言えば、品質管理部門の位置づけにも問題があるケースがあるようです。品質管理部門は本来、工場ではなく、本部の指揮命令系統の下にあるべきです。製品の品質で何らかの問題があれば、本部に報告する体制になっていることで現場に牽制が効くわけですが、多くの企業で品質管理部門は工場長の支配下にあることが多い。だから、品質管理部門が、口を挟むことが難しいのではないでしょうか。結局、「知っていたのに、何も出来なかった」というわけです。
「株主代表訴訟」を起こされた関西電力の監査役
――書籍ではスルガ銀行の不正融資問題を引き合いに、問題発生時の監査役が「(不祥事の萌芽を)知らなかったというよりも、知ろうとしなかったのでは」と疑問を呈されています。
監査役で一番いけないのは「知らなくていい」という姿勢です。これは保身以外の何物でもありません。ましてや、責任を取りたくないので、「知っていることにしないで欲しい」というのは断じて許されない。しかし、「嫌な話は耳に入れてくれるな」という監査役や社外取締役は、残念ながら、存在します。
監査役の中には、そもそもその使命を分かっていない人もいます。例えば、関西電力のケース。2019年9月に報道で発覚した関電経営陣による金品受領問題で、これより前に、役員を含む幹部が原発の立地する福井県高浜町の元助役から金品を受け取っていたことを国税当局から指摘されていた。ところが、監査役はそのことを事前に知っていたにもかかわらず、自ら調査することも、取締役会に報告することもしませんでした。会社法は、監査役は取締役の不当行為や、法令・定款違反などの事実があると認める場合、遅滞なくその内容を取締役会に報告しなければならないと定めています。
しかし関電の監査役は、19年6月まで社外監査役を務めていた土肥孝治・元検事総長(23年死去)に確認したところ、「取締役会に報告しなくてもいい」とされ、報告しなかったと言います。その理由は「法令違反はない」という判断からでしたが、これではコンプライアンスの定義があまりに狭いと言わざるを得ません。また、法務部が社外の弁護士に確認しても、違法性はないとの説明を受けたから取締役会への報告を見送ったということですが、やはり、監査役は自分自身で直接社外の弁護士に説明をして確認すべきでした。情報も自分で取ろうとしなければなりません。結果的に当時の監査役らは一部株主から善管注意義務違反で株主代表訴訟を起こされましたが、やはり、監査役に“逃げ”があったのではないでしょうか。
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