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【ACFE JAPAN岡田譲治理事長インタビュー前編】私が『監査役の矜持』を出版した理由

岡田譲治:日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)理事長

日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)理事長の岡田譲治氏が昨年、『監査役の矜持――曲突徙薪(きょくとつししん)に恩沢なく』(同文館出版、朝日新聞記者の加藤裕則氏との共著)を上梓した。三井物産で副社長CFO(最高財務責任者)を経て、2015年から19年にわたって同社で常勤監査役を務め、17年から2年間は日本監査役協会会長も歴任した岡田氏。一方、昨年6月にはACFE JAPAN理事長に就任。米国発の世界的な不正対策組織、ACFEの日本における拠点の理事長として、公認不正検査士(CFE)とともに日夜、企業・組織不祥事に対峙すべく活動している。そんな岡田氏に、自著をもとに監査役のあるべき姿、企業不正・不祥事におけるCFEの役割などについて聞いた。インタビュー前編。

感謝されることが少ない「警告する」という仕事

――『監査役の矜持』を上梓されました。監査役の在り方と、コーポレートガバナンスに関する議論のほぼすべてが一冊に網羅されているという印象です。

朝日新聞の経済記者、加藤裕則さんとの共著です。実を言うと、最初の企画構想は3年前になります。加藤さんも私も何かと忙しかったというのもありましたが、監査役を軸にしたコーポレートガバナンスをめぐる諸相はあまりに多岐にわたっています。どのような一冊にするのが読者のみなさんに理解してもらいやすいのか、二人でとても悩みましたね。最後は日本公認不正検査士協会で評議員会会長を務める八田進二先生(青山学院大学名誉教授)に発破をかけていただき、出版することができました。(苦笑)

――タイトルにある「曲突徙薪(きょくとつししん)に恩沢なく」という言葉、恥ずかしながら、ルビがなければ読めませんでした。火事が起きる前にその危険性を指摘しても誰も感謝しないという意味のようですが、監査役の役割はまさにここにあると?

曲突徙薪、一般には馴染みが薄い言葉かもしれませんね。実際、そういうご指摘もいただきました。ただ、先日、本のお話をした講演会に日銀出身の方がいらっしゃって、かつて日銀では「曲突徙薪」という言葉を入社時に基本中の基本として教えられていたというのです。「通貨の番人」である日銀は、リスクを事前に把握し金融政策が安定している常態をつくり出すことが使命であり、そこに人々の感謝など求める必要はないということなのでしょうか。

監査役もある意味、同じです。問題が起こる前にリスクについて警告を発し、災難が起こらないようにする。これがリスク管理の基本です。問題が起こってしまってからの対処も重要ですが、本来は、不正や不祥事をいかに発生させないようにするか。監査役の役割はここにこそある、と言えます。

とはいえ、事前に警告を発していたとしても、その警告を聞いてくれないケースが多いのも事実でしょう。監査役などが先回りして危険性について警鐘を鳴らしても、「そんなこと、本当に起こるのか?」とか、「ウチに限って、そんなことは起きるはずがない」とか、「そんな過ちを犯す人はいないよ」と反論され、不正や不祥事の芽が見過ごされていくわけです。

――執行側はリスクを指摘されたくないものでしょうか。

私も管理部門にいた経験上、そういった警告をギリギリとやろうと思えば、いくらでもリスクは指摘できるものです。反面、営業部門などからすれば、商売が進まなくなってしまうのではという懸念がある。監査役やリスク管理部門が「危険性はすべてチェックしなさい」と言って、その通りにしたら、確かに大半の不正や不祥事は防げます。しかし、不正は防げるけれども、利益が伴わないということになりかねない。もちろん、この場合のリスクは不正や違法行為ではなく、事業上のリスクですが、ビジネスである以上、何らかのリスクを内包しているわけです。

一方、リスク管理における3つのディフェンスライン(現業部門、管理部門、内部監査部門)のうち、管理部門である第2線できちんとリスクを検知するのが本来のあるべき姿です。私は管理部門の同僚たちに「曲突徙薪に恩沢なく」という故事を発信していました。我々の仕事はそんなに感謝されないかもしれない。いや、むしろ嫌がられる。ただし、それが我々の仕事である、と。

岡田譲治ACFE JAPAN理事長(撮影=矢澤潤)

――監査役に就任されて以降はどうでしたか。

監査役がその役割に特化した役職である以上、やはり、感謝されようが、されまいが、リスクに関する警告を発していかなければなりません。ただ、監査役、特に日本監査役協会会長になって他社の状況を詳しく知ってから、管理部門と同様、監査役も似たような環境にいることを強く感じました。

監査役が自分の会社が抱えるリスクを丁寧に調べて、「こういう問題がありますよ」と提言する。執行側が「わかった」と言って改善してくれればいいのですが、本気で取り上げないとか、あるいは「稼ぐのには邪魔な意見だ」とか……そういう雰囲気が日本の企業には根強く残っています。いまだにトップが監査役に「つまんないこと言うなよ」という態度の上場企業もあるようです。

本書を上梓したのも、そういう経営者たちに対して「監査役の矜持」を伝えたいという理由からです。それともうひとつは、監査役のみならず、第2、第3のディフェンスラインの人たちにもっと誇りを持って仕事をしてほしいというのも、執筆の動機でした。

監査役は「出世レースの残念賞」なのか? ――書…
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