業種・業界、IPO、経営者……「内部通報」態勢整備の“温度差”
また、内部通報態勢に関しては、業界別でも本気度に濃淡があるという。先のコンサルタントが解説する。
「生産拠点を持つメーカーが、内部通報に関する理解は一番進んでいるという印象があります。製造業では積極的に海外に進出している企業も多く、とりわけ、グローバル展開する大手メーカーからは国内のみならず、海外からも積極的に内部通報を受け付けたいという明確な意思を感じます。というのも、近年、大企業の経営課題として、海外子会社・拠点のリスクマネジメントの問題があります。どうしても、日本から離れた各国の拠点は本社の目が行き届きにくい。内部通報の態勢整備は、ワールドワイドなリスク情報の収集という側面もあるのです」
一方、横のネットワークが強いコンプライアンス担当者の間では、こと内部通報窓口に関しては不動産、医療・介護系企業の存在感が薄いという。また、金融機関については、自前で態勢は整備しているものの、外部のベンダーに運営を委託するケースは少ないようだ。あるメーカーの内部通報窓口担当者は、「金融機関、特に銀行などにおいては、内部通報は会社の機微に関わる“門外不出の問題”という認識なのでしょう。もちろん、そのような考え方を否定するつもりはありませんが、外部ベンダーの協力を仰ぐことによって、自社の通報窓口の立ち位置が客観的にわかるという利点は大きい。自前主義にこだわり過ぎると、どうしても“自閉”してしまいがちなセクションですから」と指摘する。

内部通報窓口の現場レベルが真摯な対応を迫られれば、当然、担当者にはこれまで以上のスキルが求められる。通報窓口など、体制は作ったものの、通報を受けて担当者が何をしていいのか分からないのでは話にならないからだ。実は公益通報者保護法改正前、内部通報関連の外部受託業界では、改正前は社員300人前後、あるいは300人を超える可能性のある企業から駆け込み需要があると期待していたが、新型コロナウイルス禍の影響もあってか、窓口外部委託の相談件数は思ったほどは伸びなかった。代わりに需要が高まったのは、担当者向けの研修だったという。内部通報窓口の外部ベンダーである受託大手幹部が話す。
「特に、窓口の担当者の人たちが通報を受け付けた後の具体的な実務面での研修です。公益通報者保護法改正法施行前後の2022年春ごろから依頼がかなり伸びました。背景には、本社から見たときのグループ会社の担当者の経験値がなかなか上がらないという実情があります。改正法施行後に、グループ会社担当者が自分たちで手立てを打たなくてはいけない状況が生まれ、新たに作った窓口の担当者の研修相談が相次いだのです。本社から、グループ会社のことを相談されるケースも相次ぎました」
このほか、公益通報者保護法改正後の環境変化で目立っているのは、IPO(新規上場)関連での相談だという。このパターンは、直接の改正法からの動きではなく、将来の株式上場を見据えた「コーポレートガバナンス・コード」(企業統治指針)からの要請で、ゼロベースから窓口を設置したいという企業経営者の思惑があるようだ。社員数50~60人程度の比較的小規模のスタートアップ企業で、改正法では内部通報窓口の体制整備が義務化されていない企業からの相談が多いという。おそらく、主幹する証券会社がスタートアップ企業に何らかの助言をしているとみられるが、いずれにせよ、若い経営者が上場前の経営課題として公益通報に関心を寄せている実態が浮かび上がる。