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アクティビスト丸木強氏「企業の意識向上で投資対象減る?」【株価とガバナンス#4】

インタビュー中編から続く)今年相次いで発表された東京証券取引所の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けたお願い」と経済産業省の「企業買収における行動指針」は、日本の上場企業が投資家と真正面から向き合うことを求めている。しかし、その意識変革はどこまで進むのか。そして、アクティビスト(物言う株主)に隙を与えないほどに日本企業は強靭となり得るのか――。ストラテジックキャピタル丸木強代表のインタビュー《後編》。

“社外取締役の任務”を履き違える社外取

――コーポレートガバナンスという点から見ても、経済産業省の「企業買収における行動指針」には、買収提案を受けた会社側の社外取締役が果たすべき役割がかなり踏み込んで記載されています。要は「社外取締役は一般株主の利益のために働け」ということですが、すでに2019年の「公正なM&Aの在り方に関する行動指針」にも明確に書き込まれています。

丸木強 2019年の時にも、我々は意見を書面で提出しました。当時は買収提案を受けた会社が、提案の検討のため第三者委員会を作って、そこに独立した立場の専門家を入れる、という案が書かれていた。そこで、私は、そんな何の責任も負ってない人間を入れるなんてダメだ、と言ったんです。せめて社外取締役にするべきだと。

社外取締役は、たとえ経営側の人選でも、曲がりなりにも株主総会で選任されていますから、株主に対する責任を負っています。本人が自覚しているかどうかはともかくとして……ですが。今回は、同様の意見を経産省に言った人が多かったのでしょう。買収提案を検討する第三者委員会は社外取締役を中心にということが書き込まれました。

――アクティビストの肌感覚として、2019年以降、世の社外取締役は会社が一般株主の利益に反する業務執行を行わないように監視することも使命だと理解するようになったと思いますか。

丸木 そこは、2019年以降変わったとは感じられず、相変わらず意識が低い方が多そうですね。私が2013年以降面談した投資先企業の社外取締役は60人前後に及びますが、社外取の使命は一般株主保護という点をしっかり理解していたのは数名だけです。大半の社外取は、自分は第三者的な立場からとか、独立した立場からとか、大所高所から発言する役割とか言うわけですよ。

特に公認会計士にその傾向が強い。確かに、会計監査は独立性が生命線ですから、社外取の使命を監査と同じように考えておられるんじゃないでしょうか。もっとも、だから弁護士が良いかというと、そういうわけではありません。むしろ弁護士は逆で、クライアントに寄り添うように経営陣に寄り添ってしまう方もおられる。いずれにしても、株主に選ばれている社外取締役ですから、中立ではなく、一般株主の利益のために行動すべきです。独立性というのは中立や一般株主からの独立性という意味ではなく、一般株主と利益相反がないことなのです。たとえば、大株主や社長や常勤取締役からの独立性と言っても良いでしょう。

――社外取締役の独立性は機能しているでしょうか。

丸木 東証の独立性基準だと、元取締役や元従業員、かつて顧問を務めていた弁護士、かつて監査を担当していた会計士などでも、辞めてから10年以上経過している場合は、独立社外取締役として届け出ることができます。ですが、原則として、私は一度でもその組織に在職したり、その組織と取引関係があったりした人に“独立性はない”と考えています。

自分がもともと関わった組織への愛着のようなものは、何年、時間が経とうと、そう簡単に消えるものではありません。また、もともとまったく無関係だった人でも、社外取締役の就任から8年以上経ったら、反対票を投じることを原則としています。やはり、8年もやったら、社外取でもその企業に愛着が湧いてしまいますからね。

――買収提案を受けた会社は、必ずリーガルアドバイサーを付けますよね。それでも信頼性は担保できませんか。

丸木 “まったくダメ”とまでは言いません。こんなエピソードもあります。当社の投資先だった図書印刷が、凸版印刷に株式交換で完全子会社化されるという事案(2019年)では、図書印刷が組成した委員会に社外取締役の弁護士が加わらなかったんです。なぜなのかを確認したら、その弁護士は10年以上前に親会社になる凸版印刷の従業員だったことがあったと開示されていました。その時までその経歴を開示していなかったから、我々は知らなかったし、知っていたらそもそもの社外取締役選任に反対していたはずですが、こちらが言わなくてもその弁護士を委員から排除した背景には、リーガルアドバイザーの助言があったと想像しています。

一方で、買収提案を受けた会社のリーガルアドバイザーは、当該企業の株主利益のためではなく経営者の保身などの経営者個人としての利益のためのアドバイスをしているケースがあると思っています。

アメリカとの違いは「裁判所」の姿勢 ――ところ…
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