アクティビスト丸木強氏「資本コストを理解しない経営者たち」【株価とガバナンス#2】
(シリーズ「株価とガバナンス」#1から続く)PBR(株価純資産倍率)1倍以上を上場企業の必達目標に掲げ、今年3月に東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けたお願い」を、そして8月には経済産業省が、アクティビスト(物言う株主)による買収提案を無視できなくした「企業買収における行動指針」を相次いで公表した。
日本の証券市場の“常識”を覆したかに見える2つの指針。アクティビストには追い風のように見えるが、果たして、当のアクティビストはどのように考えているのか――。国内アクティビストの代表格であるストラテジックキャピタルの丸木強代表に聞いた。
「株価は市場が決める」は昭和の総会対策ワード
――今年3月31日に東証がプライム、スタンダードに上場している全ての企業を対象に、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けたお願い」を発信しました。どう評価されていますか。
丸木強 大きな決断をされたと思いますよ。高く評価しています。
――メディアではもっぱらPBR1倍以上が事実上、上場企業にとって必達条件になったという報じられ方をしました。これまで上場企業は、「株価は市場が決めるもの」と言って、株価の低迷は経営者の責任ではないかのように答えてきましたが、PBR1倍割れは経営者の責任だと取引所に喝破されたと言えます。
丸木 資本コストなどの概念を理解せず、「業績を上げれば株価はついてくる、そうならなかったら株式市場のせいだ」と無邪気に考えていた経営者が多かったことは事実です。そして「株価は市場が決めるもの」というのは、昭和の株主総会の想定問答でも使われていたものなのです。株主からの質問を適当にあしらって、早く総会を終わらせるために編み出された便宜的な回答に過ぎません。
株主に誠実に回答しようと考えている会社でも、総会のリハーサルに信託銀行の担当者がやって来て、「そんなに真面目に答えなくていい」なんてことをアドバイスした時代です。そんな助言に、上場企業は株主総会対応の報酬を払っていたわけです。
――東証の3月の「お願い」は、「コーポレートガバナンス・コード」にある資本コストをきちんと考えて経営しなさいというのが本意です。丸木さんは何年も前から、株式を取得した会社に対し、資本コストの開示を求めて来た。まさに“我が意を得たり”の心境でしょうか。
丸木 資本コストを意識して経営するというのは、上場企業にとって当たり前のことなのですが、それが出来ていないどころか、そもそも、資本コストやWACC(加重平均資本コスト)の概念を理解していない経営者が非常に多かった。逆に言えば、そういう会社はパーフォーマンス的に伸びシロがあるので、我々も積極的に投資をしてきましたが……。
――アクティビストとしては、株主総会で「定款変更」を提案する格好で資本コストの開示を求める場面が多かったと思います。
丸木 定款変更での株主提案はテクニック上、その方法でしか企業側に資本コストの開示を求める手段がないからにほかなりません。ただし、定款変更は総会出席株主の3分の2の賛成が必要な特別決議を経なければならず、我々も可決されることは元より想定していません。
とはいえ、我々が株主提案することによって、資本コストやWACCがどういうもので、投資家が会社をどういう視点で見ているかを会社側も否応なく勉強し、そして理解するようになるもの。我々の狙いはそこにありました。実際、定款変更は否決されても、決算説明会資料などに盛り込む形で、資本コストの開示を始めた会社は何社かあります。
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