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【オリエンタルランド秘史#16】日米で“物言う株主”が攻撃する「ディズニー銘柄」

独断のディズニーとの契約調印に三井不動産と銀行団の怒り

  • 高橋政知 オリエンタルランド第2代社長。1913年生まれ。東京帝国大学法学部卒。61年、オリエンタルランドに専務として入社。私財を投じた接待攻勢で浦安漁民の漁業権放棄交渉をまとめ上げた。初代社長の川崎千春(京成電鉄社長を兼務)の後を受けて78年、社長に就任。
  • 坪井東(はじめ) 三井不動産社長。1915年生まれ。東京商科大学(現一橋大学)卒。38年三井合名入社。オリエンタルランド創設の立役者の一人、江戸英雄の後を受けて74年、三井不動産社長に就任。東京ディズニーランド計画に難色を示し続ける。
  • 川上紀一 千葉県知事(1975~81年)。1919年生まれ。東京帝国大学法学部卒。44年内務省入省。「開発大明神」と称された友納武人・千葉県知事のもとで副知事を経て75年、知事に初当選#11参照

1979年4月30日にDIS(当時の社名ウォルト・ディズニー・プロダクションズ)との基本契約調印に臨んだオリエンタルランド社長の高橋政知。高揚が冷めやらぬうちに日本に戻ったが、凱旋帰国というわけにはいかなかった。すぐに三井不動産社長の坪井東と会い、協調融資団の了承が出ないと基本契約の効力が発生しないとの条件#15参照を付けられなかったことを謝り、社長辞任を申し出た。

そこで焦ったのが坪井である。今後予想される荒波を自身がかぶる度胸はなく、「ここで辞めるのは無責任ではないか」となじり、高橋の続投が決まった。そう坪井が反応するのはわかっていた。すべて高橋の計算ずくだった。いつでもオリエンタルランドを去る覚悟はできていたが、この段階で投げ出す気はなかった。中途半端は高橋の信条として許されることではなかったのだ。東京ディズニーランド(TDL)開園の目処がつくまでは自分の責任でやろうと気持ちを奮い立たせていた。

だが、独断でDISとの契約に調印した高橋への風当たりは強かった。とりわけ態度を硬化させていたのが金融機関だった。浦安にディズニーランドをつくるには莫大な費用がかかる。TDL招致に後ろ向きの三井不動産や再建中の京成電鉄には期待できないため、渡米する前に高橋は千葉県の沼田武副知事を伴い金融機関を回り、日本興業銀行(現みずほ銀行)の副頭取だった菅谷隆介から好感触を得ていた#14参照。ロサンゼルスのディズニーランドにも行ったことのある菅谷は高橋をバックアップしようと、シンジケート(協調融資団)づくりに動き、なんとかまとまりかけていたはずだった。

高橋が日本に戻り興銀にあいさつに出向くと、対応した部長は険しい顔をしている。高橋の見切り発車に、せっかく話をつけた金融機関はどこも怒っていて、このままではシンジケートが組めないというのだ。菅谷を除けば、TDLの成功など各行の幹部たちは誰も信じていなかった。当初、菅谷は三井銀行(現三井住友銀行)や三井信託銀行(現三井住友信託銀行)を主役にして、興銀は脇役として支えるつもりだった。だが、三井両行は中心になるわけにはいかないという。結局、興銀が幹事行になって引っ張っていくしかなかった。

遊園地用地31万坪「宅地への変更」を画策

いくら興銀の菅谷隆介が高橋政知を応援しようにも、今の状況ではとても協調融資団結成に漕ぎ着ける見込みはなかった。「各行から融資を受けるには目に見える担保がないと厳しい」と菅谷は高橋に伝えた。オリエンタルランドが所有する担保になる資産といえば、浦安の埋め立て地63万8000坪しかない。千葉県から払い下げられる際、「遊園地用地」の指定がつけられた土地だ。うち25万2000坪がTDL関連用地、7万4000坪がホテル用地として計画され、残りの約31万坪は用途が決まっていなかった。高橋はこれを担保にしたいと考えたのだ。

しかし、遊園地用地のままでは「宅地」に比べ、価格がずっと安い。担保価値を高めなければ、必要額の融資を受けられない。もし宅地扱いにできるのなら、TDL事業が立ち行かなくなった時、住宅地として販売すれば赤字の埋め合わせもできる。そこで高橋は千葉県知事の川上紀一に土地利用制限を解除するように頼んだ。TDL誘致に全面的に協力してきた川上だったが、すぐには同意しなかった。川上は高橋に「県議会の承認を得られそうにない」と渋った。「金権千葉」と揶揄される同県では、たびたび土地転がしが問題となっていた。批判を浴びることを川上は怖れたのである。

1979年も残りは1カ月を切ったが、融資の目処はまったく立っていなかった。このままではTDLの着工はできない。完全に手詰まりとなった高橋は一縷の望みに賭けて、千葉県庁の知事室に日参した。年が明けた1980年1月、川上知事はついに決断する。膠着した事態を打開する“ウルトラC”を繰り出すのである。

(文中敬称略、#17に続く

シリーズ#1はこちら アクティビストに狙われる京成電…
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