【オリエンタルランド秘史#1】TDL「カリスマ支配」を築いた“もう一人の男”
高橋政和と三井不動産・江戸英雄の出会い
オリエンタルランドは1960年7月、京成電鉄、三井不動産、朝日土地興業の3社の均等出資によって設立された。朝日土地興業は1955年に千葉県船橋市にオープンした温泉付きのレジャー施設「船橋ヘルスセンター」の運営会社である。
高橋政知がオリエンタルランドとかかわるきっかけは、現在も6.65%の同社株を所有する三井不動産の大立者、江戸英雄との出会いから始まる。東大法学部卒業後、理研重工業(現リケン)に入社するもまもなく徴兵。第二次世界大戦中、ラバウルで捕虜になっていた高橋は復員すると、日本石油(ENEOSの前身)の特約店に入社した。その取引銀行が東京銀行(現・三菱UFJ銀行)銀座支店で、支店次長が高橋の小学校の1年先輩だった。同支店は現在、文房具店・伊東屋の本店がある場所にあった。一方、伊東屋は老舗百貨店の松屋の隣にあり、東京銀行はその土地との交換を望んでいた。だが、交渉はなかなか進まなかった。支店次長は売上金を預けにきた高橋に声をかけ、伊東屋と関係の深い三井不動産とつないでくれる人物がいないか尋ねた。1950年のことだ。
高橋自身は三井不動産との付き合いはまったくなかった。そこで思い出したのが従兄で警察官僚だった岡崎英城である。三井不動産取締役の江戸英雄とは旧制水戸高校第1期生の同級だった。なお、岡崎は1955年に日本民主党(のちの自由民主党)から衆議院選挙(東京4区)に出馬し初当選。衆議院議員を6期連続務めた。
岡崎は高橋が江戸と会えるように手配してくれた。高橋が紹介状を持って三井不動産本社を訪ねると、小柄な男が現れた。秘書だと思った高橋は「江戸さんと会いたい」と言った。その相手が本人だった。嫌な顔ひとつせず、高橋の話をじっと聞くと、江戸はうんと頷き、そのあとはトントン拍子に進んでいった。まもなく、東京銀行と伊東屋の土地交換がまとまった。
取締役業務部長だった江戸が社長に就くのはそれから5年後の1955年。52歳の誕生日を迎えたばかりで、役員の序列も中位。当時、社長が三井家から預かっていた三井不動産株が第三者に騙し取られる事件が起こり、危機を乗り切るために若手の江戸が抜擢されたのだった。この事件によって三井不動産の経営は奈落に沈んだが、同社がそれまで手がけたことのなかった埋め立て事業に進出する契機ともなった。
千葉県からの要請で千葉港中央区の埋め立てを進めていた江戸にはレジャー施設の建設、ましてやディズニーランドを誘致する考えなど、頭の片隅にもなかった。そんなときだった。水戸高の同窓の京成電鉄社長・川崎千春からレジャー事業を一緒にやらないかとさかんに声をかけられるようになる。川崎はアメリカで開園したばかりのディズニーランドを目の当たりにし、こんな施設を日本でもつくりたいと夢見るようになっていた。
レジャー事業などやったことがないと最初は渋っていた江戸も川崎のしつこい説得に根負けし、オリエンタルランドが設立されることになる。
(文中敬称略、#2に続く)
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