検索
主なテーマ一覧

【経営者と個人スキャンダル#1】岩田喜美枝さんに聞いた「社外取締役 4つの役割・責任」

経営トップは「企業の価値観」を映す鏡である

社外取締役の役割・責任の4つ目は、社会や時代の変化に敏感でなければいけないということです。

戦前の日本では愛人を持つのは男の甲斐性などと見られていたようですし、「ハラスメント」という言葉が日本になかった時代は、実態としてハラスメントがあったにもかかわらず、社会的には問題視されることはほとんどありませんでした。このように、倫理的に正しいか正しくないかという判断は、時代の変化によって大きく変わっていきます。自分自身の個人的な倫理観を超えて、社会の倫理観はどうなっているのかをしっかりと把握し、理解することが重要です。

上場企業が独立社外取締役を入れているのは、社会の価値観に照らして経営判断をするためといった意味合いも強いのだと思いますが、社外取締役自身もいろいろな人から話を聞く、多様なテーマのセミナーに参加する、メディアや書籍を通じて社会の変化を知るという努力は怠ってはいけません。

――政府は「2030年に女性役員比率を30%」という目標を掲げていますが、社内・社外問わず女性の役員が増えれば、モラルの問題で不祥事を起こす男性経営者は減っていくものでしょうか。

なかなか難しい問題ですね。先ほど、CEO選任や不信任について触れましたが、独立社外取締役は人間性や倫理面を含めて総合的に判断します。そこに忖度はないはずですから、社外取締役各人が果たすべき職務を遂行していれば、正しい判断ができるはずです。

加えて、価値観が多様化している現在、取締役会に男性以外の性別の人が入っている、日本人もいれば外国人もいる、世代も幅広いとなったら、さまざまな観点から議論ができ、内容も深まるでしょう。多様性(ダイバーシティ)の結果として、異性問題やモラルの問題に限りませんが、不祥事全般の予防や正しい対応には有利になると思います。

そもそも、執行側と取締役会は中長期的に企業価値の向上を目指すという同じ目標に向かって歩んでいますので信頼関係は大前提ですが、同時に癒着してはいけません。独立社外取締役は常にモノを言える立場にいないとならない。そういった意味では、多様なバックグラウンドを持つ社外の人間が執行側をモニタリング(監督)している状況は、執行側にとっては良い意味で緊張感を与えていると言えるでしょう。

異性問題で不祥事を起こす経営者には、自社の女性社員を対等な同僚や自分を支えてくれる存在だと考えていない、あるいは、そのような経験をしてこなかったケースが多いと思います。女性を性的な対象では見るけど、一緒に働くパートナーとは見てこなかったから問題が起こるのではないでしょうか。逆に言えば、ダイバーシティの一環として、女性活躍を経営戦略の柱として本気で考え、トップが先頭になって取り組んでいる企業には、そういった問題は起きにくいのだと思います。経営トップは、倫理観を含め企業の価値観を映す鏡でもあるのです。

岩田喜美枝さん
プロフィール

(取材・構成=Governance Q編集部)
#2《「危機管理広報」の観点から見たトップのスキャンダル》に続く

【岩田喜美枝さん関連記事】

岩田喜美枝:元資生堂副社長 / 元厚生労働省 雇用均等・児…
1 2

ランキング記事

ピックアップ

  1. 【2024年12月3日「適時開示ピックアップ」】ヤマウラ、倉元製作所、髙島屋、エイチーム、サンヨーホ…

    12月3日火曜日の東京株式市場は続伸した。日経平均株価の終値は、前日比735円高の3万9248円だった。前日2日にハイテク株が中心の米ナスダ…

  2. 蒲生氏郷「自分を有能だと誇示する者を登用するな」の巻【こんなとこにもガバナンス!#38】…

    栗下直也:コラムニスト「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ) 「自分を有能だと誇示する者を登用するな」蒲生氏郷(がもう・うじさ…

  3. 【《週刊》世界のガバナンス・ニュース#4】伯ペトロブラス、ヨーロピアン・エナジー、米スペースX、泰ガ…

    伯ペトロブラス、デンマークの再生エネ企業と「eメタノール」生産へ ブラジル国営石油会社ペトロブラスは、合成燃料の一種である「eメタノール」の…

  4. 「見えないゴリラ」を見るためのリスクコントロール【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#6】…

    企業不祥事と「見えないゴリラ」 「見えないゴリラ」について、私自身、「企業不祥事」の文脈で業務上、過去に2回ほど触れたことがある。 ひとつは…

  5. 【米国「フロードスター」列伝#2】国際サイバー犯罪の元祖インターネットのゴッドファーザー…

    毒親に育てられた“万引き家族” アメリカの東部、南部、そして中西部に囲まれた「経済と文化のクロスロード」ケンタッキー州。ブレット・ジョンソン…

  6. 「日本ガバナンス研究学会」企業献金から大学・兵庫県知事問題までを徹底討論《年次大会記後編》…

    「非営利組織」におけるガバナンスの課題も俎上に 大会の最後に行われた統一論題は「信頼向上に向けたガバナンスの確立~多様化する組織と不正の視点…

あなたにおすすめ

【PR】内部通報サービスDQヘルプライン
【PR】日本公認不正検査士協会 ACFE
【PR】DQ反社チェックサービス