【ビッグモーター×損保の核心#3】ガバナンスなき「大会社」の罪と罰
社員から信頼されない「内部通報制度らしきもの」
ビッグモーターにおいて社内に内部通報受付窓口らしきものはあったようです。しかし、扱いはハラスメント事案に限定され、通報されたときの調査主体や調査方法等の規程もなく、社員が信頼して利用できるようなものではありませんでした。
2022年6月に改正された公益通報者保護法では、従業員300人以上の企業には内部に公益通報体制を構築することが義務付けられています。したがって、今回の事件を受けて、今年8月3日、消費者庁はビッグモーターに対し、内部通報体制に不備があるとして、公益通報者保護法に基づく報告を求めました。消費者庁が同法に基づき報告を求めるのは今回が初めてです。
公益通報者保護制度とは、国民生活の安心や安全を脅かすことになる事業者の法令違反の発生と被害の防止を図る観点から、“公益”のために事業者の法令違反行為を通報させる制度です。そして公益通報者保護法では、公益のために通報を行った労働者や役員が不利益な取り扱いを受けることがないよう保護を図っています。
法では、社内で違法行為などを発見した労働者や役員が、①会社の内外の通報窓口、②行政機関、③報道機関などに公益通報を行うことを認めていますが、流れとしてはまず企業自身への通報が想定されています。当然ですが、企業内の自主的な努力によって問題事象を把握し、解決することを期待しているわけです。
ビッグモーターには社内に確かな内部通報処理の仕組みがないため、その結果として、本来、経営トップが掌握して自ら解決を図るべき不都合な情報が社外に流れていきます。
調査報告書では、社長も副社長も調査委員会の説明を受けて初めて現場の不正行為を知ったとなっています。これをもってビッグモーターにおいて「重要事項の報告・伝達体制が十分に確立されていなかったことに加え、個々の担当者リスク管理に対する意識が十分でなかった」ことが、不都合な情報が上に届かなかった原因だとしています。しかし、重要情報がトップに伝わらなかったことを、体制の不備と従業員の意識の至らなさに帰するのは、ビッグモーターの場合、無理があります。
ちょっと考えれば分かることですが、仮にもし「重要事項の報告・伝達体制が十分に確立」され、従業員が、「リスク管理に対する意識を十分」に持って、社内の法令違反や不適切修理をトップに伝えたとしたら、どうなっていたでしょうか。結果は容易に想像がつきます。その社員は感謝されるどころか、疎外されたに違いありません。
現に2022年1月頃のことですが、某工場の社員が、工場長の命令のもと不正不適切な作業をさせられていることを苦にして、巡回してきた副社長に直訴しました。ところが、副社長は社長に直接言うように指示して、問題に直接対応しようとしませんでした。その社員は社長にも写真データを添えて不正な作業を訴えました。しかし、社長は担当部長にそのまま情報を伝えるだけで、これまた真摯に調査する姿勢を示しませんでした。結局、この社員からの告発を契機として不正・不適切行為の実態が調査されることもなく、その後もこの店も含め全国的に同様な不正行為が継続されていったのです。
経営トップは、「悪い情報が入ってこなかった」と嘆く前に、本当に嫌な情報を聞く度量があるのか、自ら問うべきでしょう。ビッグモーターでの教訓は、自浄作用のない組織は外部から容赦なく糾弾されるほかはないということなのです。
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第2部ではビッグモーターと損害保険会社との関係を解き明かす。なぜ、損保各社はビッグモーターの不正を止めることが出来なかったのか――。
(第1部完、第2部#4に続く)
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