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伊達政宗「この世に客に来たと思えば何の苦もなし」の巻【こんなとこにもガバナンス!#25】

栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)

「この世に客に来たと思えば何の苦もなし」
伊達政宗(だて・まさむね、戦国時代の武将)

1567~1636年。1584年に伊達家を継ぎ、会津・陸奥を平定する。豊臣秀吉に降伏後、文禄の役(朝鮮出兵)に出陣。関ケ原の戦い、大坂の陣では徳川方につき、加封されて仙台藩の基礎を固めた。キリシタンや通商に関心を持ち、1613年には支倉常長らをローマへ派遣した。幼時に右眼を失明して、独眼竜とも称された。

秀吉の“猿回し”トラップをかわした独眼竜

伊達政宗といえば独眼竜と呼ばれ、渡辺謙が主演した大河ドラマ「独眼竜政宗」(1987年、NHK)は今でも根強い人気を誇る。

渡辺謙の存在感はもちろん、政宗の人生が波乱に満ちていたことが人々を惹きつけるのだろう。7歳で失明しただけでなく、家督を継いでからも隠居していた父親が拉致され死亡したり、実母に暗殺を謀られたり、波乱の人生を歩む。

そうした困難を乗り越えてきたからか、やんちゃながらも機知に富んだ逸話が多く残っている。

そのひとつが「秀吉の猿回しだ」。

豊臣秀吉は大名が登城する時に、猿回しが飼っている大きな猿を呼び寄せ、通路にその猿をつないでおいた。その猿が歯を剥き出し、飛びかかる時の狼狽ぶりを建物の隙間からのぞき見して楽しんでいたのだ。そんな話を政宗が耳にした時、秀吉から登城するようにと呼び出しがかかる。政宗は秀吉の目論見を知り、病気であると偽って登城せず、その間に手を尽くして猿回しから猿をしばらくの間借り受ける。 

伊達の屋敷の玄関につながれた猿は、政宗が前を通ろうとすると当然歯を剥いて、飛びかかろうとした。そこで、政宗は鞭で猿を打った。そんなことを何日も繰り返していると、猿は政宗に恐れを抱くようになって襲い掛かるようなことはなくなった。政宗は猿を猿回しに返して、秀吉には病気が回復したので登城すると願い出た。

政宗の登城日に秀吉はもちろん猿回しを呼んで、いつもの場所に猿をつながせる。出会ってからというもの、物事にまったく動じない政宗が、どのように慌てるか。想像するだけで秀吉は笑いが止まらなかった。

政宗が猿の近くに来ると、猿はいつものように飛びかかろうとしたが、政宗が猿の方に顔を向けると、猿はすっかり縮み上がってしまった。秀吉のみならず近臣たちは呆然としたが、秀吉は一瞬にしてすべてを理解し、「またしても先回りをしよったか」と大笑いしたという。

政宗はこれまでも北条攻めにわざと遅れたり、膝元の会津に移封されてきた宿敵、蒲生氏郷を貶めようと密書事件を起こしたりしていた。本来ならばお家取り潰しを命じられてもおかしくなかったが乗り切っていた。

客として“所与の条件”を嘆くより受け入れよ

「猿を借りて調教するとか、本当かよ?」と突っ込みたくなるが、確かに、同じ猿のエピソードが室町後期の武将、太田道灌と足利義政(室町幕府8代将軍)の間にもあり、創作の可能性も小さくないが、政宗のクレバーさを物語る逸話だろう。

ところで、冒頭の言葉は、倹約について政宗が語った一節だ。

倹約は不自由だが、客の立場だったならば、好き嫌いなど言うわけにはいかない。出されたものが美味しくなくても食べるしかない。与えられたもので満足できれば、礼節ある行動ができるようになるだろうと説く。

現代は何かと不自由が多い。企業も守らなければいけないルールや規制も少なくない。いや、それどころか、コンプライアンス重視の流れは強まるばかりだ。ただし、そうした状況を嘆いても何も変わらない。そもそも自分はこの世の“客”に来ただけの存在だと感えれば、思うようにならないことも受け入れられる。大胆な一手も打てて、猿回しから猿を借りればいいとも考えられる。

窮地に陥った時こそ、180度発想を変える姿勢が現状を打開する。

(月・水・金連載、#26に続く)

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