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第11回【久保利英明×八田進二#2】社外取締役は“異論”を言う役割

非上場企業の不祥事は“国家の問題”

八田 最近では非上場企業、公益法人や学校法人といった非営利組織でも不祥事や不正が頻発しています。中古車大手のビッグモーターや、ジャニーズ事務所は非上場企業ですし、日本大学は非営利組織です。ガバナンスの議論をする場合、これまでは上場企業がベースでしたが、こうした企業や大学についても「ガバナンス」の問題が取り沙汰されます。この状況をどう評価していますか。

久保利 上場企業には株主という主権者がいて、主権者は間接統治をせざるを得ないので、誰かを選んで経営をやらせるしかない。いわば、代理人制度の中で問題点をどう是正していくかというのが、コーポレートガバナンスでしょう。

そういう観点で言うと、ビッグモーターやジャニーズ事務所は問題の本質が違う気がしますね。たとえば、ビッグモーターの一族はお金や権力が欲しくて、そのために自分で100%株式を保有し、すべて身内で会社を経営するという形にしてきたわけです。

世間やメディアが、それらを犯罪だとか、日本の法律の不備が問題と言うのなら分かりますが、「ガバナンスが効いてないから起きた事件だ」と言うのなら、ガバナンスとは一体何なのか。最初から「内部統制はやりません」「取締役会は開きません」「議事録は作りません」という経営方針は、所有と経営の分離、業務執行と監視・監督の分離がない、ガバナンス以前の状況だからです。それじゃあ、個人商店はダメなのか、あるいは私立大学も国立大学のようにしなくてはいけないかというと、それにも違和感がありますね。

久保利英明弁護士

八田 上場企業は株主も不特定多数で、さまざまなステークホルダーがいて社会性・公共性が高い。だから、社会の秩序を遵守させる。そう考えると、ジャニーズは国民誰もが知っていて、海外にもファンがたくさんいるし、タレントは大企業のCMに出ている。また、ビッグモーターは日本全国に支店があって、多くの人を雇用している。つまり、これらの非上場企業も社会性が高いわけです。私はその意味で、何らかの規律付け、制裁措置が示されなければダメだろうと思います。それをどういう理論で説明すべきでしょうか。

久保利 突き詰めれば、国家経営の問題だと思いますよ。この国はどういう国なのか。ジャニーズで言えば、異常な性的嗜好を持った大人が子どもたちを不幸な目に遭わせることを許さないという国ではないのか。もしそうなら、国の法律によって犯罪者ということになり、ジャニー喜多川氏は捕まったはずです。そういう法律も作らずに「ガバナンス」と言われても、それは違うのではないか。だからと言って、許されるべきだと言っているのではありません。許してはならないとすれば、それはガバナンスの話ではなくて、警察権力などの国家権力によってこれをしっかり規制するべきなのです。ビッグモーターも、行政はそのような会社になぜいい加減な車検をさせてきたのでしょうか。車両運行の安全確保を国の責務と考えなかったのではないですか。

八田 もうひとつ言えるのは、監査の専門家が第三者としてきちんと監視・監督する。本来、一定規模の企業であれば監査役がいますが、株式会社になってはいるけども、非上場の場合は監査役が全く機能していません。

久保利 おっしゃる通りだと思います。だけど、これも監査役だけの問題なのか。売り上げがたくさんある会社に対して税務当局は何していたのだという議論もある。課税対象としてしっかりとした調査をしたか。会社法上の「大会社」なのに取締役会も開かない、議事録もないとしたら、国税当局は指摘するはずです。その指摘すらなかったとすれば、一体、国税は何をやっていたのか。自浄努力でやれればいいですけど、努力だから、やらない企業が多い。であるならば、国家権力が何らかの形で規制をしていくべきではないか。日本はそれをやらない怠惰な国家だと私は思います。

第11回「久保利英明×八田進二」#3に続く

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