2023年企業・組織不祥事からあなたが学ぶべきこと【ガバナンス時評#12】
共通する「風通しの悪さ」と「初期対応のまずさ」
2023年は企業や組織のガバナンスの問題が、従来の枠組みを超えて騒がれる1年となった。その大きな理由は旧ジャニーズ事務所という芸能界の問題と、日本大学という教育界・スポーツ界の問題がクローズアップされたためだろう。
本来、ガバナンスというものは、所有と経営が分離している株式会社、特に上場企業に対し求められるものであった。シェアホルダー(株主)だけでなく、広くステークホルダー(利害関係者)を抱える“社会的な存在”の上場企業には、非上場の企業や非営利組織よりも高いレベルのガバナンスが内外から求められるためである。
ところが、2023年に社会的に指弾されたのは、オーナー一族が絶大な力で経営を取り仕切ってきた非上場企業である旧ジャニーズ事務所や、保険金不正請求を問われた大手中古車販売のビッグモーター、そして非営利組織である学校法人の日大の姿勢だった。
こうした企業・組織に、上場企業に相当するようなガバナンスを求めるべきなのか否か。求めるとすれば、いかなる理由で、また、どの程度求めるべきなのか。そうした問いが突き付けられた1年であったと言える。
とはいえ、旧ジャニーズや日大をめぐる問題の根源には、上場企業が起こす不祥事と共通したものもある。それは「組織内の風通しの悪さ」だ。
日大のケースでは「第三者委員会答申検討会議」の報告書でも述べられているように、日大内部には透明性あるディスクロージャーが担保されていないどころか、秘密主義、隠蔽主義とも言える体質が醸成されていたという。
これでは、仮に誠実で能力のあるトップが就任しても、そのレベルまで正しい情報が上がってこないため、適切な判断や意思決定を下すことはできない。確かに、日大の林真理子理事長が当初、記者会見で「スポーツのことは私には分からないので」と述べたのは最悪であった。そもそも、本連載でも指摘した通り、作家である林理事長に“ガバナンス力”を求めるのは酷なことでもある。しかし、元より日大では、理事長まで正しい情報が伝わらず、隠然たる権力を持つ競技部(体育会)やそのOB、それとの関係の深い幹部の段階で情報が握り潰されていたのも事実なのだろう。
参考記事
【ガバナンス時評#6】日大の林真理子理事長に「ガバナンス力」を期待するのは酷である
第二に、「初動対応のまずさ」も上場企業の不祥事と共通するところであった。組織たるもの、活動していれば、いつ何時、不祥事を発生させるか分からないものである。だが、その初期対応で、不祥事企業・組織がさらに過ちを起こして大炎上してしまうことが実に多い。
本来であれば、不祥事を起こした組織は会見でまずは何をおいても真摯に謝罪し、なぜこうした問題が起きたのか、今後どのようにそうした問題の発生を防ぐのか、さらに別の問題が起きた場合にどう対処するかなどについて、可能な範囲で丁寧に説明する必要がある。
ところが旧ジャニーズであれ、日大であれ、あるいはビッグモーターや、同社との不適切な関係が指摘される損害保険ジャパン(親会社のSOMPOホールディングス含めて)であれ、いずれも最初の記者会見を開いたのち、世間からの風当たりは一層強まった。これは、明らかに初期対応に失敗したからである。
なぜ失敗するのか。
その理由は2つある。ひとつは世間の認識と内輪の論理とのズレだ。会見を行っている側が、「このくらいは大したことではない」「ともかく頭を下げれば、やり過ごせる」と内心、タカを括っているのである。そうした姿勢が、首を垂れていても「本当に反省しているとは思えない」という印象を世間に与える。何が問題かを理解していないことが、会見を通じて露呈しまうのだ。
いうまでもなく、真に反省のないところからは、問題の根源にも、改善策にも行き着くことはできない。要するに、会見に臨む準備ができていないのである。
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