フジテレビ港社長会見と社外取締役に求められる「型破りなアクション」【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#10】
“人権侵害”疑惑の当事者、港社長会見をフジ取締役会はなぜ許容したのか?
研究会が終わった後、くだんの記者から、今回の記者会見は出席できるメディアは原則、記者クラブ加盟社に限定され、動画の撮影や配信は認められず、会見が終了するまで情報公開も不可という制限も付いていたことが知らされた。また、何らの手違いなのか、17時半過ぎになっても、そのメディアには会見内容を整理した資料が届いておらず、17日時点での筆者のコメントはいったん棚上げしたい、とのメールでの連絡があった。
フジテレビの港浩一社長の会見内容は、金曜日の夕方からネットメディアで報道され、土曜日、日曜日には会見に対する批判的なコメントやワイドショーでのコメンテーターの酷評などが溢れていた。
確かに、ネットメディアの会見概要を読む限り、記者会見と言える内容を備えていたのかすら、疑問を感じる。また、2023年6月にタレントの中居正広氏をめぐるトラブルを認知したことを認めながら、1年半もの間どのような調査をしたのか(外部の弁護士の助言を受けながら社内で調査・確認したという割には)、具体的な結論などは一切触れられていない。
週刊誌では元女性アナウンサーと指摘されている「被害者」のプライバシーの配慮などを理由として秘匿しつつ、トラブルを起こした(人権侵害の疑いのある行為をした)中居氏を起用し続けたことについて、説得的な説明は行わず、調査結果などについても会見では一切触れられない。
このような窮状に陥ったことは、経営トップによる記者会見に求められる最低限のミッションすらも果たしていないと酷評されても仕方がないように思える。
しかし、週刊誌の報道では、自社の女性アナウンサーを芸能事務所の幹部や大物タレントの接待要員として動員することが常態化し、組織的な問題であるとの疑義を指摘されている。さらに、今回、元女性アナウンサーを接待要員として動員したと追及されている編成幹部A氏だけでなく、港社長もかつて同様の対応をしていた疑義があるとも指摘されている。
このような報道が相次いでいるにもかかわらず、疑念を向けられている社長本人による記者会見をなぜ取締役会は許容したのかというのが、筆者のより根本的な疑問である。
不正の疑いを認識した取締役は、善管注意義務の一環として、企業が法令を遵守しながら企業活動を遂行することを確保すべく行動する責任を負っている。
本件では、元女性アナウンサーと中居氏のトラブルという個別事案にとどまらず、フジテレビが組織的・構造的に女性アナウンサーの人権侵害を繰り返していたとの報道がされている。このような報道に接した時点で直ちに取締役会の開催を求めて、取締役会で事実関係の調査を求め、調査の結果、違法があれば是正する行動をとることが取締役の善管注意義務により求められていたはずだ。
人権侵害行為に関与したとの疑念の渦中にある代表取締役や社内取締役には、現状維持バイアス、代表者に対する忖度、あるいは問題を極小化する傾向がある。そのような取締役会の中で積極的に行動できるのは、社外取締役以外には存在しない。
社外取締役が積極的・能動的な役割を果たしていれば、あのような記者会見にはなることはおよそ考えにくい。そこで予想されるのは、フジテレビの取締役会メンバーの人権侵害リスクについての感度の鈍さである。
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