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「踊る大捜査線 THE MOVIE」とコンダクト・リスク【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#2】

現場からの“ボトムアップ”を重視する2020年のFCAペーパー

ところが、その英FCAは、2020年9月に公表した「Messages from the Engine Room’5 Conduct Questions Industry Feedback for 2019/20 Wholesale Banking Supervision」(FCAペーバー)で、コンダクト・リスクを現場の社員の視点で捉える姿勢に転じた。FCAペーバーには、次にピックアップするとおり、コンダクト・リスクの認知のために有用な記述が多く見られる。

・社員のコンダクト・リスクについての認知度は高まっているが、社員によるコンダクト・リスクの特定のための技能レベルと社員関与の機会は依然として懸念事項である。
・より身近なところでのコンダクトに関連する問題を把握・特定するスキルや、日常業務で発生する問題を把握・特定する能力を改善することに留意する必要がある。
・コンダクト・リスクは非常に幅広い概念で、ほとんどの社員は、(バックミラーを通じた)認識や認知から(フロントガラスを通じた)多種多様なコンダクト・リスクを把握・特定する能力へと移行する初期段階にある。社員が新しいリスクや既存のリスクに対してより注意を払い、より積極的にリスクをエスカレートさせることができれば、企業のコンダクト・リスクを管理する能力は大幅に上昇する可能性がある。
・文化、心理的安全性、リーダーシップはすべて、職場環境の全体的な健全性に寄与しているが、十分とは言えず、継続的な取り組みが必要である。
・ラインマネージャー(管理職、直属の上司)は、部下と普段からコミュニケーションの延長として関係を築き、部下が判断のつかない領域、確信の持てないケースについて、素直に意見が言える(スピークアップできる)心理的安全性の確保される環境を醸成するために重要な役割を果たす。

近時、発覚した不祥事事案でも、ミスコンダクト(不公正)な事態に現場では違和感を抱きながらも、それを疑問視する等の声を上げられずに、時には組織にネガティブ感が充満する状況まで達していることがオリンパス、商工中金、ジャパンディスプレイ、ダイハツ工業、ビックモーター等、多数の調査報告書で描かれている。

また、筆者の経験でも、当事務所で内部通報を受けて窓口担当の弁護士として不正の現場とされる支社に赴き調査を行い、最終的に本社取締役と支社長との違法行為が露見したが、現場社員のほとんどは違和感を覚えていたが、声を上げられずにいた。通報者は、別のエリアから当該支社に転勤したばかりの幹部社員で、違和感を拭えずすぐに声を上げ(通報し)、問題の発見につながったという経緯だった。

企業経営者は、自社のコンダクト・リスクをボトムアップで把握できるようにするため、現場の役職員が声を上げやすいように、心理的安全性を高める仕組みの構築を心がけるべきで、FCAペーバーは英文の文献ながら、有用な参考資料として参照されるべきである。

……ラム酒、カスタードクリームとバニラシャンティが調和したモンシナイの味を思い出しながら、織田裕二の台詞にそんなことを考えてしまった。

【FCA】Messages from the Engine Room’5 Conduct Questions Industry Feedback for 2019/20 Wholesale Banking Supervision(FCAペーパー原文)
https://www.fca.org.uk/publication/market-studies/5-conduct-questions-industry-feedback-2019-20.pdf?_ga=2.172134179.1641409530.1727677515-858809842.1724902216

(隔週連載、#3は10月17日公開予定)

金融庁、日本取引所が定義する「コンダクト・リスク」と…
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