金融庁、日本取引所が定義する「コンダクト・リスク」とは
コンダクト・リスクが注目された契機は、2012年に顕在化したLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)不正操作事件である。日米英の金融規制当局が捜査の実施・監督強化に乗り出し、英金融当局、金融行為規制機構(FCA)は「顧客保護」「市場の健全性」「有効な競争」に悪影響を及ぼす行為が行われるリスクとしてコンダクト・リスクを定義した(Journey to the FCA October 2012)。
その後、金融安定理事会(FSB)がコンダクト・リスク削減のために国際的な監督当局によるワークプランを策定・実施することをG20(主要20カ国)宛てに表明。そしてその動向を受けて、金融庁は、2018年10月に公表した「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理 基本方針)」11~12頁で、コンダクト・リスクを以下のように定義している。
規律が法令として整備されていないものの、①社会規範に悖る行為、②商慣習や市場慣行に反する行為、③利用者の視点の欠如した行為等につながり、大きな企業価値の毀損を引き起こす可能性のあるリスク。
また、2023年4月に同庁が公表した「オペレーショナル・レジリエンス確保に向けた 基本的な考え方」29頁でも、コンダクト・リスクに触れ、その具体例として相場操縦、利益相反行為、インサイダー取引、顧客説明義務違反、適合性原則違反を挙げている。
また、日本取引所自主規制法人「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」の「原則1」が、企業は、「明文の法令・ルールの遵守」にとどまらず、「取引先・顧客・従業員などステークホルダーへの誠実な対応」や、「広く社会規範を踏まえた業務運営の在り方」を重視し、「社内慣習や業界慣行を無反省に所与のものとせず、また規範に対する社会的意識の変化にも鋭敏な感覚を持つ。」と謳っているのは、事業会社も、コンダクト・リスクを認知し、対処する態勢の整備の重要性を説くものと理解することができる。
これらは2012年のFCAに倣い、経営陣や管理職層の認識・行動の視点からコンダクト・リスクを捉えている。