【大手企業訴訟ウォッチ#3】上野アメ横「二木の菓子」積年の相続訴訟がようやく終結
「二木の菓子」創業者が遺した資産と負債と“争族問題30年”
「二木」の企業名を挙げただけでピンと来る人はもう少なくなっているかもしれない。しかし、「ニキ、ニキ、ニキ、ニキ 二木の菓子」、もしくは「スイング、スイング、スイング、スイング、二木ゴルフ」との、初代林家三平に始まって、弟子の林家こん平、息子のこぶ平(現・林家正蔵)ら林家一門がテレビのCMキャラクターを務めた会社と言えば、一定世代以上の人は思い当たるだろう。同社は東京・上野御徒町のアメ横商店街のほぼ中心に、「菓子・食品 現金問屋 菓子の二木」と大きな看板を掲げた店舗ビルを持つ、アメ横を代表する企業だ。
会社としての二木は、もともと菓子メーカーとして1947年に二木源治が東京・板橋区で創業。戦後に菓子の現金問屋としてアメ横に営業所を開き、アメ横の“顔”になる。そして1973年にゴルフ事業部としてスタートさせたのが、二木ゴルフだ。企業グループとしての二木は、二木ゴルフ、東洋茶廊(現・二木商会)、共栄ビル(現・プラザニキ)を関連会社に持つ。
その二木では、1995年に創業者の源治氏が亡くなって以来、息子3人(長男のK氏は1999年に死亡)と末娘のM氏の間で相続をめぐる問題で発生し、「土地建物所有権移転登記」、「遺産分割申立」、「売買無効確認」と、長らく終わりなき紛争を抱えてきた。ところが、そんな一連の泥沼訴訟も2020年から争っていた今回紹介する「立替金支払」の訴訟の判決が5月25日に下りたことで、ようやく終結しそうなのだ。
相続を巡っての対立なので、細部は微に入り細を穿つような複雑ぶり。ただ、詰まるところは「取り分」をめぐる対立で、むしろシンプルかつ単純。源治氏が亡くなって相続開始時に残された遺産は「少なくとも(約)19億5000万円」(判決文)あり、単純計算で4人各人に約4億9000万円で分割されるはずのものだった。ところが、M氏の相続額だけ、当初は約56万円、分割協議後でも約4600万円と不当に低かったことから、息子側とM氏が対立(土地建物所有権移転登記、遺産分割申立)。
一方、二木ゴルフの用品販売が時代の波を受け好調だったところに、折からの開発ブームに乗って茨城県土浦市でのゴルフ場開発にも乗り出すが、これがバブルの崩壊によって頓挫。最終的に、創業者の源治氏は資産だけでなく負債も残したことから、こちらの分割をめぐる対立(売買無効確認、立替金支払)も加わって複雑化していた。そして最後まで残っていた立替金支払訴訟もこのたび、終結したことで、区切りがついたことになるはずだ(なお、本稿締め切り時点で上告されていることは確認できなかった)。
そして結論はというと、分割協議では息子側による「誤った説明」(判決文)で錯誤があったため、M氏の4分の1分割相続が認められ、負債の分割では固定資産税の支払いでほとんどの時効が成立し、時効以後の376万円分だけの支払命令が下された。こういった具合に、判決内容はM氏の“完勝”と言えるものだった。
二木のグループは、今もって原告・被告双方らが役員に入って同族経営されている。また、二木はこれまた、今もって“上野アメ横の顔”で、上野動物園のパンダ関連のニュースでは、応援する地元の商工会の応援団代表として息子らがよくマスコミに登場。新たなパンダを呼ぶために尽力し、影の功労者としても知られる。
しかし、菓子問屋、現金問屋の業態もあってか、テレビCMを大量出向していた往時と比べれば、精彩を欠いた存在になっていることは否めない。その陰に、創業者死去から約30年に及ぶ第2世代の“争族”問題が横たわっていたことを知るにつけ、同族企業においても「サクセッションプラン」(後継者育成計画)はかくも難しいことを思い知らされる訴訟だったと言えよう。
(#4に続く)
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