企業犯罪学から見る「品質不正」の真因【白石賢・東京都立大学教授】前編
日本企業の従業員が強いられる“メンバーシップ型雇用の影響”
それでは、不正を働く従業員の立場から問題を見てみましょう。従業員に課されるノルマをめぐっても、日本と欧米では質的な違いがあります。日本ではかんぽ生命の不正販売が典型的で、ノルマがきつくて現場が不正を続けていました。米国でも同じような従業員のノルマの問題から、2016年に大手銀行のウェルズ・ファーゴの不正営業が起きています。
もちろん、日本でも米国でも、ノルマや目標が経営層から直接降りてくるのは中間の管理層です。ウェルズ・ファーゴの場合、中間の管理層は従業員たちが積み上げるノルマの達成具合によって報酬が決まる成果報酬制でした。一方、従業員の報酬は成果報酬ではなく契約で縛られていました。しかし、ノルマが達成できないと、中間の管理層の権限で解雇されます。極論すれば、従業員はその会社で働き続けるためには不正を行わざるを得ないということです。他方、日本ではノルマの未達程度では従業員は解雇できません。出来が悪いということで負い目を感じて居づらくなったり、異動させられたりと精神的に追い詰められるというケースが多いのではないでしょうか。
米国では、解雇が簡単にできるために自分自身の雇用を守るために不正の実行に至る。片や日本では、ノルマ未達でクビになるわけではないが、居づらくなるのでチームで頑張らないといけない。そのため不正を行わないといけない。これは日本の「長期雇用・メンバーシップ型雇用」が影響している可能性があります。この点が日本と米国の構造の違いと言えます。
ただし、最近の日本の不祥事を見ていますと、品質不正を起こした現場がチームや会社のために不正を行っているかというと、そういうわけではないようです。「会社のために(自分が犠牲になって)不正をしてあげよう」という忠誠心からではなく、どうしようもない、やらないと自分がまずい立場に置かれるという 追い込まれ型、自己保身型とも言えます。
そういう意味では、会社組織の中で社員がある種の“合理的な選択”の結果として、品質不正やデータ改竄が行ってきたと解釈すべきでしょう。その点では、米国と日本は似てきているのかもしれません。
後編では、日本企業における不正の解決策を提示したいと思います。
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