東証プライム企業で「反社交際疑惑」三栄建築設計の前代未聞
一従業員の比ではない「元社長が反社交際」のリスク
企業と反社会的勢力との関係遮断に実効性を持つ暴排条例だが、具体的にはどういう内容なのか。荒井弁護士が続ける。
「暴排条例は各自治体が制定しているものなので、それぞれに若干の差異はありますが、大体同じような内容です。事業者には、一定の取引に当たって相手が暴力団関係者ではないことを確認すべきとする努力義務や、一定の暴力団関係者に対する利益供与を禁止するといった義務が課されています。この利益供与の禁止について説明しますと、たとえば、中高車販売業者が中古車を暴力団員に正規価格の100万円で販売して、その者から100万円の代金を受け取ったとします。正規の対価を受け取っているので、通常の商取引ではありますが、自動車を利用できるという“便益”を暴力団員に供与してしまっている側面は否めません。こうした正当な商取引であっても、相手方が一定の暴力団関係者であれば禁止されることになります。つまり、暴排条例は、平成19年の指針と軌を一にして、企業に対して暴力団関係者とは取引をしないよう求めるものとなっているのです」
では、暴排条例に違反した場合、どうなるのか。
「条例に違反した場合は東京都の場合ですと、まずは三栄建築設計になされたように都の公安委員会が利益供与を行わないよう勧告をし、それでも従わない場合には事態が公表されることもあり得ます。こうした制裁が課され得ることから、暴排条例が制定されて以後は、金融機関や上場企業に限られることなく、暴力団員をはじめとする反社会的勢力との取引が、企業にとって重大なコンプライアンス上の問題(不祥事)になると広く認識されるようになりました」(荒井弁護士)
ちなみに、三栄建築設計の場合、公安委員会の勧告段階なので、この時点で公安委員会により社名が公表されるわけではないが、東京証券取引所の規則上、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす事実については適時開示をしなければならず、勧告段階でのリリース公表となった格好だ。それでは、三栄建築設計の対応はどうだったのか。
「平成19年の指針が出されて以降、暴力団関係者との取引の排除が進展していくと、自社の役職員から暴力団関係者を排除する取り組み、いわゆる“社内暴排”も進展するようになり、従業員に対して反社会的勢力との不適切な交友は業務の内外を問わずに禁じることを内規で明確に定めるなどの動きも見られるようになりました」としたうえで、荒井弁護士は、三栄建築設計のケースの問題性を以下のように指摘する。
「今回の三栄建築設計の件では、当時の代表取締役が暴力団員に利益供与を行ったとされていますが、一般に、役員が反社会的勢力と不適切な関係を有している場合のリスクは、従業員のそれと比べて格段に大きいものとなります。たとえば、銀行取引約定書に一般に導入されている暴排条項には『役員が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係』を有する場合には金融機関が貸付金にかかる債務の期限の利益を喪失させることができる旨の条項が導入されています。
一従業員が暴力団員等と交友しているようであれば、その従業員を処分することで問題を解消するということもあり得ると思いますが、それが役員の場合であれば、企業の組織的な関与まで疑われる事態になり得ますし、ともすれば金融機関からの借入金について一括返済を迫られる可能性が生じるなど種々のリスクに晒されかねません。
このように役員と反社会的勢力との不適切な関係は企業の存続すら危うくしかねないリスク要因となるものですから、役員はこのリスクの重大さを今一度認識しておく必要があるでしょうし、企業としては定期的な研修を実施するなどして注意喚起を図り続けるべきでしょう」
事実、反社との交際を疑われている三栄建築設計の元社長は同社の筆頭株主で、個人名だけでも48.98%(2023年2月末時点)の持ち分を保有しており、会社への影響力はとてつもなく大きいはずだ。一方で、6月20日以降の三栄建築設計の新経営陣は、今後、元社長の影響力を“遮断”すると謳っているが、果たして、影響力の遮断はどこまで実現ができるのか。また、それによりステークホルダーからの信頼回復が可能となるのか。すなわち、企業の“ホワイト化”の成功事例となり得るのか――。三栄建築設計新経営陣が6月に設置した「遮断モニタリング委員会」の実効性が注目されるところである。プライム上場企業に降って湧いた反社交際疑惑――。#2以降の記事では、有識者の声を交えながら、今後の動きを検証する。
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