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【ACFE JAPAN岡田譲治理事長インタビュー前編】私が『監査役の矜持』を出版した理由

監査役は「出世レースの残念賞」なのか?

――書籍の帯には「監査役のヒーローはいらないんです」とありますが、逆に言えば、危機が発生しないとヒーローは現れないものです。

本書ではいろいろな不正や不祥事の例を挙げていますが、ほとんどは“手遅れ”になってのことばかりです。手遅れにならないと結局、その問題が存在したのかどうかすら、外部からはわかりません。だから、問題が顕在化しなければ、それでおしまいなわけで、監査役の仕事や活躍がフォーカスされることはありません。

――危機を未然に回避しても感謝されない?

投資を例にして言えば、そこにリスクを感じた監査役が、経営者に投資を控えるよう促したとします。その後にリーマンショックのような危機が到来すれば、「損害を予見した」ということで、監査役はヒーローになれるかもしれません。しかし、監査役が警告を発した後も価値が上がったら、「まだ上がっているじゃないか?」となる。場合によっては、「あの監査役は慎重すぎて経営を邪魔している」といったことになりかねない。それでも、自らが警告を出すべきと判断したら、監査役は合理的な説明をもとに経営者に伝えなければなりません。もっとも、経営者に監査役の意見を真面目に検討する姿勢が大前提です。

――そういう意味では、監査役がモチベーションを維持しながら、経営の危険性を指摘することは非常に難しいことではないでしょうか。

確かに、監査役がモチベーションを維持しながら、リスクを指摘し続けるのは難しいことだと思います。監査役も人間ですから、評価されれば、やる気が上がるのは当然。そして、具体的に誰に評価して欲しいかというと、経営者なのです。経営者が「監査役はよくやってくれている。おかげで安心してビジネスができるよ」という言葉をかけてくれれば、それだけで報われるものです。しかし、そういう言葉をかける経営者は滅多にいないようですが……。

――日本の企業社会において監査役というポジションは、出世レースの「残念賞」ではないかとの指摘もあります。

社長レースをずっと戦ってきて、多くの人が脱落していくのが大企業の宿命です。平の役員になって、常務、専務、副社長と進むと、次は社長を目指すものです。ただ、ある時点でマネージメントから離れて監査役になると、それはもう競争からは外れた人だなという意識を社内のみんなが何となく持つのだと思います。少なくとも、最初から監査役を目指すサラリーマンはいないでしょうしね。

――岡田さんは三井物産の副社長CFO(最高財務責任者)から常勤監査役になられています。お飾りの監査役ではなく、押しも押されもせぬ実力監査役ですよね?

私自身が実力監査役だったかはわかりませんが、三井物産で私と同時にもう一人の常勤監査役になったのも副社長経験者でした。また、飯島彰己会長(当時)が入社同期だったということもあり、監査役としてモノを言う環境は恵まれていたと思っています。そもそも三井物産では、2002年に北方領土(国後島)を舞台にした偽計業務妨害事件、04年にはディーゼル車向けの微粒子除去装置(DPF)偽装問題と立て続けに不祥事が起こりました。この問題を機に、会社全体がガバナンスやコンプライアンスを真剣に考えるようになったという下地が出来ていたことも、監査役にとっては大きかったですね。

他方、財務部門と監査役の関係性で言うと、CFOは企業内における第2のディフェンスラインなので、そういう意味では、監査役の役割とつながっている面があると言えます。執行の財務担当時代に粉飾決算などの不正に手を染めておいて、監査役になったら、それを自らが監査するというような転倒した問題も起こり得ますし、実際にそういうケースもあった。だから、CFOの時から監査役と同じ意識で矜持をもって職務に当たる必要があるのではないでしょうか。

――監査役という職務に適した資質はありますか。

不祥事や不正には、必ず何かしらの“岐路”があるものです。まずは不正を起こさないという岐路があるわけですが、経営層が不正の存在に気付くのは、一般に発生した後というのが多い。だから次に、不正を検知した時、どのように行動するかという岐路がある。社会に詳らかにするのか、どう行動するのか――これが分かれ目になります。まずは不祥事や不正の萌芽となる情報について、それが発展するかどうか感じられるか、感じられないかが大きな分岐点と言えるでしょう。監査役は目指して就任するポジションではないものの、この感度については、個人的な資質も大きいと思います。

――会社法における監査役の権能は非常に大きいものです。しかし、それが有効に機能していない状況ではないでしょうか。

会社法の歴史は「監査役の権限の強化の歴史」といっても過言ではないと思います。ところが、それでも企業不祥事はなくならない。もう監査役制度ではダメだというので、委員会設置会社(現指名委員会等設置会社)という制度が併設されました。しかし残念なことに指名委員会等設置会社でも不祥事は起こっています。要はガバナンス制度の問題ではないということです。

一方、監査役が期待に応えていないというのも事実です。問題の端緒が報告されたのに動かない、無視するという例もあります。例えば、監査役が社長によって選ばれ、「数年後、関係会社の役員になれるかもしれない」という期待を抱いていれば、社長に忖度してものが言えなくなってしまうことはあり得ると思います。従って、監査役の選任について同意権の行使で満足してはいけないと思いますし、監査役から執行に戻る例をつくることも望ましくないと思っています。

本書でも書いた通り、監査役は会社法上、後任の人事について、同意権や提案権を持っているのです。自分の例を出すと、2019年6月の任期切れを前に、当時の安永竜夫社長に後任候補4人の名前をしたためた手紙を書いたのです。同期の常勤監査役と同時退任だったため、就任者より2人多い推挙でしたが、これは候補者が執行側で登用される可能性も考慮してのことでした。結果、安永氏はこの4人の中から2人の監査役を選びました。会社法がイメージした完全な形ではないかもしれませんが、私たちなりに監査役の権能を行使した例だと考えています。

執行が自ら透明性の高い経営を行い、すべてを監査役等(加えて会計監査人、内部監査人)に詳らかにして説明責任を果たす、という状態になれば自然と質の高い監査が行われ、結果としてステークホルダーの期待に応えることができるのが理想です。企業不祥事の原因はひとえに経営者にあるのに、監査役が予防できなかった、発見できなかった、とガバナンス制度をいじくり回すのはいかがかと思います。

インタビュー後編では岡田氏が、昨今多発する不祥事と監査役の実際について、そして自身が理事長を務める日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)および各公認不正検査士(CFE)が果たすべき役割や可能性について語る。

同文館出版、2640円(税込)
(クリックするとAmazonに遷移します)

インタビュー後編につづく

岡田譲治:日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)理…
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