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大正製薬MBO「株主総会トップ再任賛成率」の伏線

大正製薬HD「MBO」の行方

そんな中、注目されるのが冒頭の大正製薬HDである。上原明社長(82)の取締役選任決議の賛成率が、前回の取締役改選期である2021年6月株主総会の92.3%から74.72%に急落してしまったのだ。

大正元年(1912年)創業の大正製薬は、中興の祖にあたる上原正吉が第二次世界大戦後に社長に就任。以降は上原家が代々社長を輩出し、正吉の養子の昭二名誉会長(96)、昭二氏の女婿である明会長(HD社長)、孫の茂社長(47、HD副社長)と健副社長(46、HD取締役)が今も経営の中枢を占める。大株主を見ても、「上原記念生命科学財団」が18.28%を保有する筆頭株主であり、一族や財団などの持ち分を合わせると35.0%。その他も合計すると、約4割を上原一族関連が保有しているという。

2023年6月の株主総会で明HD社長が賛成率を下落させる一方、息子でHD副社長の茂氏は87.91%、その弟でHD取締役の健氏も88.18%を確保。世代交代を望む株主の声のようにも読める。ちなみに、監査役も含めて、女性役員はゼロで、2023年3月期末時点のPBRも1倍を下回っていた。

そんな大正製薬HDは11月24日、MBO(経営陣による買収)を実施することを発表。株式市場(東証スタンダード市場)から退場することを決断した。しかも、株式の買い付け総額は約7100億円と、日本企業のMBOでは過去最大規模となる。大衆薬市場が縮小の中、上場コストを忌避しての非上場化とされる。ただ、MBO発表以降、株価は上昇しており、11月29日には8753円(終値)と買い付け価格の8620円を値を付けた。買い付け価格が引き上げられる可能性があることも視野に入れての値動きになっており、会社側からしてみれば、株価上昇はMBOコストの上昇を招くことになる(12月11日終値は8626円)。

サクセッション・プラン策定の重要性

トップが長期間在任することで、コーポレートガバナンスの透明性を損ない、引いては業績も左右することを懸念する向きは多い。その解消策のひとつとして期待されているのが「後継者育成計画(サクセッション・プラン)」だ。

社長ら経営幹部が後継者を指名し、次世代を担う経営幹部を育成する。現役の経営トップが空席となっても迅速な人材配置を可能とし、権限と責任の空白期間を回避する方策として欧米で広まっている。

日本ではまだまだ一般的ではなく、経済産業省と大手監査法人のPwCあらた監査法人が上場企業を対象にまとめた「2020年度コーポレートガバナンスに関するアンケート」によると、後継者候補の育成計画の策定・実施ができている企業は26%にとどまる。

とはいえ、変革の動きは出ている。長期在任の代表的企業であるニデックは、創業者の永守重信会長が副社長5人を選び、この中から2024年4月に社長を輩出することを宣言し、有価証券報告書に明記した。大企業幹部をヘッドハントしては力不足と論難して社外に追いやった永守会長をして、世界標準に準じようとする動きと言えそうだ。

いずれにせよ、トップの選任決議の賛成率から各社のガバナンス事情が仄見えてくることだけは確かである。

(了)

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