【ビッグモーター×損保の核心#5】損保ジャパン「保険金支払い」が営業の道具に
11月半ばにきて、伊藤忠商事を中心とした企業連合が支援の検討に入ったとされる中古車販売大手、ビッグモーター。しかし、兼重宏行前社長ら創業家の排除が絶対条件といい、再建が一筋縄では行かないことは明白だ。そもそも、損害保険会社をも巻き込んだ一大企業不祥事に発展した背景は何なのか。損害保険ジャパンでリスク管理担当役員などを歴任し、損保の内情に精通する井上泉氏が問題の所在を明らかにする。
ビッグモーターに「査定権限」を与えた損保ジャパン《承前》
「プレゼンスアップ」のために簡易調査を提供
(#4から続く)損保ジャパンは「簡易調査」ということで、本来は損保会社固有の権限である損害査定行為を事実上、代理店であるビッグモーターに委譲しました。これは整備工場部門を持つビッグモーターが修理方法と修理費を自分で決めて、それが保険金支払いに直結することを意味します。
損保ジャパン、ビッグモーター両社はそういう非常に危うい仕組みを抱えた関係なったわけですが、さらに見逃せないのは、9月8日の記者会見で損保ジャパンの白川儀一社長が、「(簡易調査を)ビッグモーターにおける損保ジャパンのプレゼンスアップのための一施策として実施された」と述べていることです。「プレゼンスアップ」とは、ビッグモーターの歓心を買うために、「簡易調査」を提供したという意味です。
もちろん、競合他社から抜きん出るために、知恵と工夫を動員して相手にとって魅力あるサービスを提供することは企業戦略として認められることです。しかし、保険会社の重要な機能である査定権限まで引き渡すことは、選択肢としてはあり得ません。これは、本来、客観的・独立的に運営されなければならない保険金支払い機能を営業(契約募集)に従属させたことを言明しているに等しいことなのです。
もし百歩譲って「簡易調査」を正当化するとすれば、その絶対条件は、修理見積の信頼性の高い、保険会社の目線と同じ水準で適切な修理方法と妥当な修理金額で作業ができる工場であることです。そして損保会社が定期的な事後モニタリングを行い、工場側の見積の妥当性を継続的にチェックしていくことも必要です。しかしながら、ビッグモーターにはその資格が全くなく、損保ジャパンもモニタリングに基づく有効な指導をしていなかったのです。
惨憺たるビッグモーターの工場の実態
ビッグモーターにおいては年々モニタリング結果が悪化していました。損保ジャパンでは、工場のレベルを、総合判定「青」(14のチェック項目で〇が70%以上)、「黄」(○が30%以上70%未満)、「赤」(○が30%未満)の3区分で管理していました。2020年度の検証では、大半の工場が「黄」と「赤」であり、2021年度に至っては、全ての工場が「黄」と「赤」という恐ろしい状況になっていました。
ビッグモーターにおける「簡易調査」は、ビッグモーターの見積もりの信頼性が高いという、いわば“虚構”の上に立った仕組みに過ぎず、実はビッグモーターが望むままに修理費を計上し、保険金請求を行うことを許すという無法の根源になっていたのです。査定権限を整備工場に引き渡すリスクとは、こういうことです 。
この時点で、損保ジャパンは直ちにビッグモーターを「簡易調査」の適用工場から外し、各工場に対して改善指導を行うべきだったのですが、扱い保険料の大きな代理店であるビッグモーターから反発を受けるのを恐れ、具体的な改善指導を行っていません。損保ジャパンが問われるのは、ビッグモーターはもはや簡易査定権限を与えるに値しない相手と分かっていながら、紹介車両の整備を行わせ続け、なんら実効性ある対策を取ろうとしなかったことなのです。
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