【損保ジャパン元役員「不祥事防止」の教訓学#2】不祥事防止“実効性向上”の3要素
【実効性向上の要素③】日産車体で実践した再発防止策の“見える化”
第3は、打ち出した不祥事対策や再発予防策がどれだけ具体的に進んでいるかについて、経営陣が確実に把握しているかという問題です。部下から単に口頭で「きちんとやりました」「終わりました」と言われても、それを疑わないのが古き良き時代のリーダーの姿かもしれませんが、今の時代にそれではとても務まりません。決められた再発防止策が予定通り、確実に実行されているかは、経営者の重大な関心事のはずです。
ここで重要なのは、一体どこまで出来ていれば良しとするのかという基準の問題です。そのためには、まず再発防止策そのものが、具体的で達成時期がはっきりしたものでなければなりません。ところが往々にして、再発防止策が「強化」「徹底」「推進」「確認」「検討」などという文学的表現にとどまり、具体的に何を、誰が、どこまでやるというイメージが確立されず、共有化されていないものが多いのが現実です。
ということは、達成の有無や程度が判断・評価できないことにつながります。したがって、対策の進捗を実効性のあるものにするためには、対策そのものを具体的に構成し、再発防止策の各項目の進捗・達成・時間を“見える化”し、全社的にフォローしていくことが、再発防止策の定着には不可欠です。
その際、私が社外監査役として関与していた日産車体のケースが参考になると思います。日産車体では、2017年に完成車検査不正問題が起きました。完成車を検査するときには資格が必要になるわけですが、無資格者が検査をやっていたというので、親会社の日産自動車ともども大問題に発展しました。そこで、この苦い経験を繰り返さない決意のもと、社長以下一丸となって再発防止を策定していきました。
その内容は取締役会で徹底論議しましたが、毎月の取締役会でも93項目の再発防止策がそれぞれどこまで進んでいるのかを確認し、進まない事項や途上の問題点があれば、経営として掌握してその都度、解決していこうという取り組みを行いました。そのための資料としては、93項目の対策について、それぞれ時系列的に進捗状況を表で示し、何がどこまで進んでいるかを一目でわかる表を作成しました。これを会社のホームページで公開していましたが、経営陣が進捗を理解する上で大きな助けになったと思います。
検査行為が不正に陥った数多くの原因すべてをまず目に見える形で網羅的に示し、それに対して誰がどういう手を打っているのか、予定どおりに進んでいるのか否かを見ながら、経営が主体的に再発防止策に関わっていくことが重要なのです。もし進んでいない対策項目があるとすれば、その理由は経営資源の投入に係る問題が潜んでいることが多いのです。それは担当者のレベルでは解決できず、経営者の問題となります。
以上が、私の考える「不祥事防止の実効性を高める3つの要素」です。最終回の#3では、本特集シリーズのテーマである「不祥事をいかに伝承していくか」についてお話ししたいと思います。
(#3に続く)
【シリーズ記事】
ピックアップ
- 【2024年11月20日「適時開示ピックアップ」】ストレージ王、日本製麻、コロプラ、GFA、KADO…
11月20日の東京株式市場は反落した。日経平均株価は売り買いが交錯し、前日から62円下落した3万8352円で引けた。そんな20日の適時開示は…
- 安藤百福「素人だから飛躍できる」の巻【こんなとこにもガバナンス!#36】…
栗下直也:コラムニスト「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ) 「素人だから飛躍できる」安藤百福(あんどう・ももふく、実業家) …
- 【《週刊》世界のガバナンス・ニュース#2】米エヌビディア、豪レゾリュート・マイニング、加バリック・ゴ…
組閣人事報道も相次ぎ、世界がトランプ米大統領の再来前夜に揺れ動く中、世界では、どんなコーポレートガバナンスやサステナビリティ、リスクマネジメ…
- 鳥の目・虫の目・魚の目から見る「公益通者保護法」の再改正【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#5】…
「EU公益通報者保護指令」を参考に では、不利益処分の禁止の実効性を高めるにはどのような規定を定めるべきなのか。この問題を「鳥の目」「虫の目…
- 【米国「フロードスター」列伝#1】「カリブ海豪華フェス」不正実行者の所業と弁明…
豪華フェスの壮大な計画 「麻薬王パブロ・エスコバルが所有していた、バハマの孤島で史上空前のラグジュアリーな音楽フェスをセレブと一緒に体験でき…
- 「日本ガバナンス研究学会」企業献金から大学・兵庫県知事問題までを徹底討論《年次大会記後編》…
「非営利組織」におけるガバナンスの課題も俎上に 大会の最後に行われた統一論題は「信頼向上に向けたガバナンスの確立~多様化する組織と不正の視点…