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【損保ジャパン「金融庁処分」の深層#5】組織風土改革“5つの提言”《前編》

損保ジャパン「組織風土改革」に向けて5つの提言

【提言①】取締役会の改革

損保ジャパンの取締役会構成の大きな特徴として、1人も社外取締役がいないことが挙げられます。その理由は、社外性を有するガバナンスは親会社SOMPOHDが行使するので、自分たちは業務専一でやればいいと割り切っているからだと思われます。その結果、7名の取締役は全員が“社内”となっています。

公開大会社については、会社法では、最低1名の社外取締役を置くことを義務付けており、またコーポレートガバナンス・コードでは、東証プライム市場上場会社は独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきであるとしています。損保ジャパンは非上場であるため、いずれも対象外として社外取締役を置いていないのですが、会社の業態・規模からして再考の余地があります。今のような取締役全員が会社業務の現業に従事しているか、会社出身者であれば、代表取締役を中心にした同心円状の発想から逃れにくく、意思決定の正当性を主張することも困難です。

“ムラの常識”にとらわれず、「それって変じゃないですか?」という存在が必要なのです。

もうひとつの特徴は、営業と並ぶ重要な機能である保険金支払い部門出身の取締役がいないことです。また、取締役兼任者を除く執行役員35人のうち、保険金支払い部門関係者が3名といかにもバランスの悪い数字になっています。これでは“保険金支払い部門軽視”という批判から逃れることはできないでしょう。もちろん、役員選任は、部門利益にとらわれず、個々人の能力と資質をもとに行われるべきですが、それでも経営思想の見せ方として配慮が必要です。

【提言2】取締役報酬体系の改革

報酬の在り方は、役員のパフォーマンスを規定し、企業風土にも大きな影響を与えます。「高い報酬は高いパフォーマンスに従う」とは、かつて日産自動車CEOのカルロス・ゴーン氏が言っていたことです。ゴーン氏のその後の顛末は置くとしても、問題は「何をもって高いパフォーマンスと評価するか」です。

SOMPOHDが公開している役員報酬の決定方法を見ると、評価基準について極端に営業成果を強調していて“戦闘的”ともいうべき内容であることに気づきます。

売上と利益で役員を評価

SOMPOHDの役員報酬は固定報酬(月例報酬)と変動報酬(業績に連動する)の2本立てとなっており、変動報酬は、年1回支給される賞与(業績連動報酬)と退任後に支給される株式(業績連動型株式報酬)から構成されます。

業績連動報酬は、各事業の単年度業績に対する役員の貢献に応じて支給するもので、単年度の財務指標として、損保ジャパンの場合、正味収入保険料、修正利益、ROE(自己資本利益率)、当期純利益が使われます。また、株式報酬では、TOPIX(東証株価指数)との対比、保険グローバル企業の純利益成長率との対比でポイントが決められます。

それぞれの報酬の占める割合は、グループCEOは固定:変動=33.4:66.6――つまり3分の1が固定、3分の2が変動です。グループCEO以外のCEO(各事業会社の社長)の比率は主要会社で半々と思われます。これに加えて、取締役の任期がSOMPOHDも損保ジャパンも1年ですから、短期間で成果を刈り取ろうという動機が発生しやすいのです。

恐らく、このような評価体系が、金融庁が指摘してやまない損保ジャパンの「顧客の利益より、自社の営業成績・利益に価値を置く企業文化」を形成している大きな原動力になっていると考えられるのです。そして、役員がこのような営業成果至上主義で評価されていれば、その下の社員も同様に評価され、パフォーマンスもこれに引きずられていくことは明らかです。

誤解のないように言いますが、業績連動評価が悪いということではありません。しかし、現在、世界的にサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)が重要な経営課題であるとの意識が高まっている中、会社経営が複眼的思考で行われなければならない時代に、特定の財務指標の満足度に極端に偏った評価でよいのか。それがここでの問題提起の真意です。

「業績連動報酬」の見直しを

現在、業績連動報酬の限界に気付いた企業も多く、プライム上場企業の中には、特定の非財務指標やESG項目をKPI(重要業績評価指標)として採用し、それらを役員の報酬評価に加え公表しているところがあります。概要を以下に掲げておきます。

 ● 対象取締役が法令違反その他の取締役会が定める事由に該当する場合に予定されている金銭報酬の全部又は一部を不支給とする。

 ● サステナビリティ経営を推進するため、2022年度よりESG目標への取組評価を役員報酬に反映しています。(評価項目:気候変動対策、クリーンエネルギー製品・サービスの提供、人材の活躍推進、コンプライアンスの実践、グループリスクマネジメント、デジタル事業等)

 ● 人材戦略の実現度合いを定量的に判断するため、従業員意識調査結果を評価項目としたインセンティブを設定します。

 ● 報酬決定においては、非財務指標を含めた評価視点を強化すべく、報酬に係る評価方法を見直した結果、業績連動の金銭報酬については、賞与に統一し、成果報酬と連結ROA基準報酬については廃止することを取締役会で決議しました。

 ● 役員報酬については、不正を抑制するための仕組みが組み込まれていること。

 ● 全社業績評価において最高20%の割合で、ESG第三者評価を組み込む。

 ● 2022年度から役員賞与に非財務指標を導入しています。「人起点の変革」を重視し、「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」の体現を推し進めるとともに、持続可能な世界の実現に向けて、重要な定量目標を採用しています。

SOMPOグループでは、収益やマーケットシェアに偏重した米国型業績評価を採用していますが、これからは新しい時代の流れに応じたサステナブルな役員報酬制度が求められます。そのキーワードは、「社会性」と「人間性」なのです。

次回の最終回#6では残り3つの提言をお伝えします。

#6に続く

前回シリーズ】「ビッグモーター×損保会社」問題の核心(全6回)

(#4から続く)中古車販売大手のビッグモーターによる保険金…
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