【損保ジャパン「金融庁処分」の深層#3】SOMPOHD“子会社監督責任”どこまでか
親会社はどこまで子会社の不祥事に責任を持つべきか
親会社(SOMPOHD)が子会社(損保ジャパン)の管理にどこまで責任を負うべきかという問題は、実はなかなか難しい問題です。この問題については、SOMPOHDと金融庁の認識は必ずしも一致していないというより、むしろ、かなりのズレが出ているように思われます。
法的には、一般論として、親会社には子会社に対して2つの責任があるとされています。1つは、子会社での違法・不当な行為を発見し、またはこれを未然に防止することは、民法上の善管注意義務ないしは忠実義務であるというもの。すなわち、親会社は子会社の株主であり、親会社の取締役には、会社の重要な資産としての子会社を管理し、親会社に損害(風評被害を含む)を与えないようにする注意義務(善管注意義務ないし忠実義務)があるというものです。2つ目は、前述の会社法上の内部統制システムの構築義務に基づく責任です。
持株会社の“責任のあり方”は会社ごとに違う
ところで、櫻田会長は2023年9月の記者会見で、親会社の責任を問われて、親会社が何でもかんでも報告を求めたりするのであれば、子会社と持株会社をつくる意味はない、それぞれの子会社の自主的な努力でガバナンスを構築してほしいという趣旨の発言をしています。つまり、親会社が子会社に対して厳格な管理をすることの必要性について疑問視しているのです。
櫻田会長のこの考え方には一理あります 。
親会社取締役は子会社の業務を監督する義務と責任を負っていること自体は是認するにしても、大きな疑問として残るのが、親会社取締役が負っているとされる子会社監督責任の内容と範囲の問題です。確かに、内部統制システム構築義務にしても、何をどこまで整備すればいいという基準はありません。
そうすると、親会社取締役の具体的な責任の幅や深さは、会社ごとに違うということになります。親会社取締役の子会社に対する監督責任は、当該子会社の企業集団における重要性、株式の所有の態様、子会社の業務に対する影響力や指図の有無および程度、子会社で行われる行為の性質等に応じて、個別的に判断されるべきということになります。
ただし、SOMPOHDについて言えば、一般の持株会社とは異なった位置づけにあるのです。その詳細については、次回#4でお伝えします。
(#4に続く)
【前回シリーズ】「ビッグモーター×損保会社」問題の核心(全6回)
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