不祥事発覚も「内部通報制度」が機能しなかった上場企業19社
初回記事では、2023年に内部通報が発端で不祥事が発覚した企業を取り上げたが、本稿では不祥事が発覚した際、内部通報が機能していなかったとされた企業を取り上げる。「第三者委員会ドットコム」の2023年度の集計データを調べると、第三者委員会等の調査委員会が立ち上がった79社のうち、内部通報が機能していなかったと指摘された企業は19社。なぜ内部通報制度は機能しなかったのか。その理由を分析する。
中国で5億円超の横領発生「東洋機械金属」の通報窓口の実際
不適切会計や架空計上等が発端で調査委員会が立ち上がった企業は12社と最多だった。そのうち、税務調査等で問題が発覚した企業は総合設備会社のダイダン、空調関連機器商社の東テク、東海エリアを地盤とする中古車販売のグッドスピード、老舗ゼネコンの東亜建設工業。
グッドスピードでは、金融庁の公益通報窓口に「売上の先行計上の不正を行っている」と通報があり発覚したが、第三者委員会の調査では、不正を認識していた社員がいたにもかかわらず、〈そもそもどのようなことを通報すべきか分からず、本件疑義が通報対象になるかわからなかった〉、〈通報窓口は社内のみであると思っており、社外の通報窓口があることを知らなかった〉といった内部通報に至らなかった背景を記載している。さらに、内部通報制度については社員にメールで告知していたが、外部の通報窓口である顧問弁護士の連絡先は知らせていなかったという。
会計監査人からの指摘により不祥事が発覚したのは不動産開発業のサムティと、商業施設の店舗設計などを行うラックランド、東亜建設工業の3社。東洋機械金属のケースは、中国・広州市にある子会社に現地監査人の監査が入り不祥事が発覚した。2022年1月から23年5月までの間で約2800万人民元(日本円で約5憶8000万円)が経理業務を担当していた社員により私的流用されていたことが判明した。
東洋機械金属の特別調査委員会報告書によると、広州の子会社で行われたアンケートでも内部通報制度の存在は周知されていた。しかし、内部通報窓口は日本語を想定した窓口のみで、「グローバル内部通報窓口」が設置されておらず〈日本語の使えない海外グループ会社の従業員から通報を受けたとしても、言語上の問題から、当該窓口において通報内容を十分に理解し、通報内容を踏まえた対応をなし得るのかという点には疑義が存する〉と指摘されている。
顧客および下請けからの指摘で不祥事が発覚したのは、テレアポ代行業のダイレクトマーケティングミックスと、塗料メーカーの菊水化学工業の2社。外部機関から指摘を受けて会計不正が発覚したのはITコンサルティング業のITbookホールディングスの1社。サンリオでは同社のライセンス営業本部担当者からの指摘で売上未計上が発覚、鉄道関連部品専門商社のヤシマキザイは内部監査で不適切会計処理が発覚した。
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