“大川原化工機事件”代理人・髙田剛弁護士「警察でも“内部不正告発”を止められない時代」【新春インタビュー#7】
「当局リーク」を垂れ流すマスコミが “冤罪被害”を増幅する
また、メディアの報道のあり方にも言及しておかなければなりません。
報道各社は、大川原化工機の社長らが逮捕された際、警察からのリークに基づいて一方的な報道を行いました。これにより大手企業や金融機関は一斉に大川原化工機との取引を停止しました。
大川原化工機には体力があったので会社を潰さずに済みましたが、有罪判決が出ていない段階、しかも企業側が容疑を否定している段階で、あたかも“クロ”であるかのように大々的に報じられてしまうと、場合によっては会社が倒産しかねません。
また、被疑者とされた当事者も「早くこの状況から逃れないと、会社が潰れてしまう。社員が路頭に迷うことになる」と、逮捕後に無実の罪を認めてでも釈放されて事態に対処したいと考えるようになります。
もちろん警察はそれが狙いで、身柄を拘束して自白を取る人質司法の手法に持ち込みたいのですが、メディアがそれに手を貸す状況にもなっているのです。
大川原化工機のケースでは逮捕時でしたが、ガサ入れの段階でリーク報道がなされ、深刻なダメージを受ける企業もあります。
私が最近関与した事件では、ガサ入れの報道によりすべての金融機関との取引が停止しました。その後、書類送検を受けた検事は、すぐに嫌疑不十分による不起訴にしました。この事件でも、元より警視庁の法解釈やその適用に無理があったのです。
これをX(旧ツイッター)で指摘したところ、ガサ入れ段階の記事については、各報道機関ともインターネット上の記事の削除に応じてくれました。しかし、嫌疑不十分で不起訴になったといっても、金融機関はガサ入れを受けたという事実を重視するようです。その企業の場合、不起訴から数カ月が経った現在も、大手金融機関との取引は再開されていません。
大川原化工機事件に話を戻すと、社長の逮捕後、私は直ちに従業員からのヒアリングと法令調査を行い、不正輸出ではないことを説明した文書を報道各社に流しました。しかし、ただの1社も、会社側の見解を報道してくれませんでした。その結果、逮捕時のリーク報道のみが、さも真実であるかのように残され、会社の信用を害し、関係者の心を傷つけ続けたのです。
報道各社が私たちの主張を取り上げ出したのは、東京地検が異例の起訴取り消しをした後です。逮捕から1年半近くが経っていました。
その後、私たちが国賠訴訟を提起し、大川原化工機がまったくの無実であり、立件自体が不当であったことを発信し続けました。そして、事件が捏造だったという現役警察官の証言が出てからは、NHKをはじめ報道各社も積極的に取材を進めて、記事にしてくれるようになりました。
これ自体は有難いのですが、もし大川原化工機に体力がなければ、会社は倒産していたかもしれない。こうした冤罪事件は二度と起こるべきではありませんが、今後も起こり得るでしょう。その危険性についてはメディアにも再考を求めたいところです。
冒頭の通り、国賠訴訟の東京高裁判決は5月28日を予定しています。なぜ冤罪が生じたのかについて、踏み込んだ認定がなされることを期待しています。ぜひご注目ください。
(取材・構成=梶原麻衣子)
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