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“大川原化工機事件”代理人・髙田剛弁護士「警察でも“内部不正告発”を止められない時代」【新春インタビュー#7】

不正の予防・検出がガバナンス評価に直結する時代

一審では捜査に携わった外事一課第5係所属の20名の刑事のうち、5名の証人尋問が行われました。そして、その中の2名が捜査の内幕を赤裸々に証言し、「(事件は)まあ、捏造ですね」との発言も出るなど、警察内でも無理やり事件化して逮捕・起訴したことに対する疑問の声があったことが浮き彫りになりました。その後、その2名の証言を裏付ける数多くの内部資料が、さまざまな形で表に出てきています。

私自身、多くの内部資料を入手し、控訴審での証拠として提出をしましたし、また、控訴審では、さらに1名の刑事が、捜査幹部が立件のために経産省の法解釈を捻じ曲げ、また、不利な証拠を黙殺していたことを証言しました。

新事実は、裁判以外のルートでも次々と明らかになりました。例えば控訴審の結審直前には、起訴取り消し翌月となる21年8月に警察が内部で行った事件に関する「未来志向型の検証」を目的としたアンケート調査が、反省や組織改革に生かされることなく破棄されていたことが明らかになりました。実際のアンケート項目のコピーが都議会や報道機関に出回っています。

さらには、さる1月4日放送のNHKスペシャル「“冤罪”の深層〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜」で、捜査段階から捜査員たちはこの事件が無理筋であると感じ、前のめりな上司や上層部を説得しようと話し合っていた音声記録が公開されました。

それによれば、捜査幹部の指示に忠実に従っていたと見られていた警部補でさえ、警部補同士での会議では、「もうメチャクチャですよね。狂ってますよね」と捜査幹部を批判していることが分かりました。

【NHKスペシャル】「“冤(えん)罪”の深層〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜」サイト
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/Z9N4KR2QGQ/

NHKスペシャルの放送前、12月25日に東京都が裁判所に提出した書面では、警視庁は、3人の警察官が法廷で証言した「冤罪」の内幕について、憶測であり、推論であり、壮大な虚構であるなどと総括していました。

しかし、嘘の証言をすると偽証罪として処罰される可能性すらありますから、現職の警察官が、嘘をついてまで自己の組織を批判する必要はまったくありません。実際、NHKが公開した音声記録により、3人の警察官の証言が虚構ではなく、「暴走する捜査幹部とそれを制止しようとする警部補たち」という構図が、歴然たる事実であることが明らかになったのです。

こうして、警視庁公安部という秘密性の高い組織においてですら、さまざまな内部資料の流出や、裁判での証言によって、恥部が明るみに出たことは、当事者の私にとっても大きな驚きでした。時代が変わったこと、どんな組織においても、不祥事を揉み消し、隠し通せる時代ではなくなったことを実感します。

組織に所属する人たちの個々の倫理観や良心によって、不祥事や不正は表沙汰になるようになった。つまり今後、あらゆる組織は、不都合な真実を「隠し通せる保証はどこにもない」という前提で動く必要があるのです。

法律も、そうした倫理観を是とする方向で整備されてきています。現在、公益通報者保護法の再改正が検討されていますが、内部通報者の身元や、その後の処遇については保護されるべきという流れは一層強まり、通報を理由に不利益を被るような処分を与えれば、刑事罰が課せられようとしています。

そもそも301人以上の組織では内部通報窓口の設置が義務付けられていますが、問題は運用や対応で、その実際が組織の評価や企業価値に直結する時代になろうとしています。つまり、不正予防・検出の体制整備は健全なコーポレートガバナンスの大前提なのです。

こうした不祥事、不正をめぐる社会の潮流を、あらゆる組織は踏まえておく必要があるでしょう。

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