ACFE JAPAN岡田譲治理事長「不祥事続く日本 2025年は“公認不正検査士”元年に」【新春インタビュー#3】
岡田譲治:日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)理事長
本誌「Governance Q」新春インタビュー企画第3弾は、弁護士、公認会計士など不正対策のエキスパートが集う日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)の岡田譲治理事長。2024年もグローバル企業をはじめとする大企業でも不正・不祥事が相次いだ。2025年は、そうした状況をどう超克すべきなのか――。大手商社、三井物産で代表取締役副社長CFO(最高財務責任者)、常勤監査役を務め、日本監査役協会会長も歴任した岡田理事長が、コーポレートガバナンス、そして不正対策のあるべき姿を語る。
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「三菱UFJ銀行“貸金庫”事件」の死角
2024年は元日に能登半島地震、翌2日には日本航空機の羽田空港地上衝突事故という大惨事で幕を開けましたが、直近の秋から年の瀬にかけても、驚くような事件が立て続けに起こっています。
そのひとつが、三菱UFJ銀行の貸金庫事件です。ご承知の通り、女性行員が貸金庫から顧客の資産十数億円を盗んだとして懲戒解雇され、半沢淳一頭取が12月16日に記者会見で陳謝する事態に追い込まれました。
また、東京証券取引所で開示業務を担当する職員や、金融庁で株式公開買い付け(TOB)を担当していた同庁出向中の裁判官によるインサイダー取引が相次いで発覚、この2人は12月23日に告発されました。
さらに11月には、野村証券の元営業社員が広島市で顧客の高齢女性から現金約1800万円を奪って住宅に火をつけたとして強盗殺人未遂と放火の罪で起訴される……こんな事件に耳目が集まりました。
何より深刻なのは、彼ら・彼女たちが、これまでなら「この人たちは問題を起こすはずがない」と思われるようなポジションの人たちだったことです。もはや何を信じていいのかと、感じた人も多いことでしょう。どんな企業や組織でも不正・不祥事は起きますが、これらの人々の属性を見て異常さを感じずにはいられませんでした。
特に三菱UFJ銀行のケースは問題の根深さを物語っています。
問題行員は、当該支店の貸金庫・予備鍵保管の管理責任を担う立場にあった管理職であるうえ、予備鍵についても第三者が定期点検を行っていたと、それなりの管理体制も敷いていたとのことです。
確かに、銀行などの金融機関では、一般の企業よりも業務上の手続きが極めて厳格なものになっています。書類作成ひとつをとってもミスがないようダブルチェックを行うし、不正防止・検知の観点から、疑わしい行員には(調査を実施するため)長期休暇を取らせたり、(不正が隠蔽できないよう)余計な時間を与えずに転勤させたりといった具合です。
実際、銀行側の発表の通りであれば、貸金庫の顧客の合鍵を勝手に使えないルールなど、業務プロセスは適正だったと考えられます。しかし、それが現実には空洞化していたのです。
組織内の不正を防止するうえで大切なことは、不正を実行しようとする者に対して「誰かが見ているぞ」と思わせることにほかなりません。私自身も会社員時代、周囲に「任せっぱなしは絶対ダメだ」と再三言ってきました。
例え話ですが、人手が足りずに所定の業務を簡略化するよう、最初は上司に許可を求めたものの、「好きにやって」と全面的に任せられた。それで、さしたる悪意もなく逸脱行為で対応してみたら、それが通ってしまった……。こういうルールの逸脱が、果ては大きな不正になる発展することもあるのです。
米犯罪学者のドナルド・R・クレッシーが提唱した「不正のトライアングル」の3要素は①機会、②動機、③正当化ですが、上司がその「機会」を意図せずにつくり出してしまうわけです。
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