英国に降り立った「LIBOR“不正”操作事件」元日本人被告の過酷【逆転の「国際手配3000日」#1】

通話記録が証拠に

「モトムラです」
「大将、どうも。すみません、○○証券のイケタニです
「はい、はい」
「ヘッジファンド販売担当者も行きたいと言っています
「ヘッジファンド販売担当者も行きたい?」
「はい」
「ん……ああ、ゲームですか」
「そうです」
「ああ、了解です。問題ないです」

これは、本村氏がラボバンク東京支店勤務時代、取引先の証券会社社員と電話でやり取りした際の通話記録である。米司法省が本村氏を訴追するに当たって採用した証拠のひとつだ。もともとの会話は日本語だが、司法省側が英訳。ここに掲載したのは、それを筆者が日本語に訳し直したものだ。

怪しい会話には見えない。しかし、はなからクロと決めつけている米司法省は、「ゲーム」などを、“不正”行為を裏付ける隠語とみなした可能性がある。

実際、UBS証券が2012年に米司法省と締結した有罪答弁合意書に採録されたブローカー、トレーダー間のチャットでは、「今回のLIBORゲームは恐ろしくうまくいったな。モナコのヨットで遊ぶ時は俺のことを思い出してくれ」などといった、いかにも“悪事”を共謀しているかのような軽口のやり取りの中で、「ゲーム」という言葉が使われていた。こちらは確かに“怪しい”。

だが、本村氏の会話に出てくる「ゲーム」とは、その実、サバイバルゲームのことだった。当時、本村氏は、取引先との親睦を深めるため、イベントを企画して参加を募ることがあった。ここでの「ゲーム」は、そんなイベントのひとつを指している。LIBOR取引とはまったく関係がなかった。

本村氏を訴追するに当たって米司法省側が開示した証拠については、弁護士が逐一、翻訳上の問題点や日米の文化の違いなどを指摘することによって、最終的に誤解は解消された。

LIBOR事件ではしかし、こうした不正が疑われる電話の通話記録や電子メール、チャットが当局に押収され、名前が割れたトレーダーらが芋づる式に摘発されていった。そのトレーダーらの横のつながりは、「スパイダー・ネットワーク(クモの巣)」と呼ばれた。

折しも各国では金融危機を招いた犯人捜しが広がっており、金融機関への巨額のペナルティーとトレーダーらの摘発は、当局にとって、処罰感情が高まっていた世論に訴える格好のPR材料ともなった。

ラボバンクをはじめ金融機関は、巨額罰金と引き換えに、当局との間で訴追延期合意(DPA)を締結するなどして解決を図った。ただし、英バークレイズの会長と最高経営責任者(CEO)が引責辞任するなどの事例はあったものの、経営トップが刑事責任を問われることはついになかった。

「臆病者クラブ」(The Chickenshit Club、ジェシー・アイジンガーの著書名〈未邦訳〉)と揶揄された当局が刑事責任を問うたのは、トレーダーやデータ提示担当者、ブローカーら個人のみだった。