【ビッグモーター×損保の核心#4】損保ジャパン元役員が検証する「車両紹介」の罠
ビッグモーター「本業支援」がシェアの決め手
損保会社が整備工場の本業を支援する時、車検の紹介や修理車両の紹介(顧客紹介)が通常行われます。損保ジャパンは、2009年頃からビッグモーターの整備工場を技能優秀、高い品質と認定し、事故車両の修理先として紹介・誘導する取り組みを全社的に展開していました。ただし、整備工場代理店に顧客を紹介するのは、特に損保ジャパンに限ったことではなく、損保会社共通の取り組みであり、また紹介される側の整備工場もビッグモーターに限ったものでもありません。
一方、ビッグモーター側も当然ながら、本業支援に貢献してくれる損保会社に扱い契約を多く回そうと考えます。ビッグモーターは2014年度から車両紹介1台につき5件の自賠責保険を配分するというルールを作り、2018年度からは、前月の車両紹介実績台数のシェアに応じて損保会社に配分するようになりました。
このことは、損保会社にとって整備工場への車両紹介が、単なる本業支援の域を超え、保険契約獲得の原動力となってしまったことを意味します。そうすると、代理店に対する業務指導や契約募集社員に対する教育といった、地味ながら、損保会社が本来取り組まなければならない本質的に重要な仕事よりも、シェアに直接響く車両紹介にのみ注意が向かないかとの疑問が出て来ます。さらには、ビッグモーター側も適切に代理店業務ができなくなっていたのではないかという疑念も生じます。
金融庁もまさにこの問題意識をもとに検査を行ってきたわけで、ついに11月14日、鈴木大臣が11月末にビッグモーターの保険代理店登録を取り消す方針を表明しました。登録取り消しは過去に例がない極めて重い処分です。そして、その責任はビッグモーター自身にあるとともに、幹事会社たる損保ジャパンの責任も免れないものとなります。
ビッグモーターに「査定権限」を与えた損保ジャパン
そもそも、損保会社が事故車の所有者に、適当と思われる整備工場を推薦する場合、当然、その整備工場の顧客対応品質、修理技術、修理費用面において他をしのぐ優秀なものであることが求められます。
通常、事故車両が整備工場に入庫されると、損保会社との間で以下のような流れに従って修理が行われます。
① 損保会社の事故査定担当者(「アジャスター」と呼ばれる技術専門調査員)が損害調査を行い、車両の損傷を確認し、事故との整合性があるかを確認する。
② 車両の損傷状況の確認方法としては、1)アジャスターが出向いて直接実査する「立会調査」、2)アジャスターが整備工場から送信された画像をもとに損傷診断、修理方法立案、見積を行う「画像伝送調査」、3)アジャスターが整備工場から郵送された写真と見積書をもとに損害額の協定を行う「写真調査」の3種類がある。
③ 整備工場は自社の見積(初期見積)を算出し、損保会社の担当者と修理価格を話し合って決める「協定」を行い、修理費(支払保険金)が確定する。
ここでの肝ともいうべきプロセスは、損保会社自身が車両の損傷を確認し、それに応じた修理方法とその費用のメドをつけて整備工場と交渉するということです。しかしながら、損保ジャパンでは、ビッグモーターに対し、全工場で損傷診断や修理方法についてアジャスターによる調査を省略し、ビッグモーターの工場見積りで協定する「簡易調査」という方法を許容していました。
損害調査業務の省力化による生産性向上とともに、顧客のための早期着工、早期納車が目的だといいます。その意図は理解できるとしても、「簡易調査」は、本来損保会社の固有の権限である損害査定行為を、事実上、代理店に委譲することになります。ビッグモーターは整備工場部門を持っているので、修理方法と修理費を自分で決めて、それが保険金支払いに直結するという非常に危ない仕組みだったのです。
続く#5では、その詳細と損保ジャパンの動向を検証します。
(#5に続く)
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