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第4回【佐藤隆文×八田進二#1】東証プライム上場企業すべてが「プライム」なのか

金融庁長官時代に打ち出した「ベターレギュレーション」の精神

八田進二・青山学院大学名誉教授

八田 そうですね。上場会社として自律的で、その会社が目指したい目標に向かって最高のパフォーマンスを発揮するということは、まさに、社会の公器たる上場会社の使命です。その会社の質は自助努力によって高められていくことが理想だと私も思います。ただ、残念ながら現在の状況は、当局が何かを打ち出すと、不承不承でも従わざるを得ないと捉え、そこに自主性が感じられない状況になってしまっているのではないでしょうか。

佐藤 そこは、当局による規制と、規制を受ける民間の側の主体性の双方が組み合わさってこそ世の中は前に進んでいく、というのが私の信念です。当局による規制だけでも、民間の自主性だけでもダメで、双方の力がうまく組み合わさることで世の中は前に進むのではないかと。規制を作る側の仕事を長年してきた私の立場から申し上げると、当局が企業に対し、どういうインセンティブを持つように仕向けようとしているのか、その規制の趣旨はどういうところにあるのか、といったことを理解し受け止めていただいて、民間企業として自主的に創意工夫を凝らしてほしい。こう思うわけです。

八田 まさに佐藤さんが2007年に金融庁長官就任と同時に打ち出した「ベター・レギュレーション」の精神ですね。

佐藤 そうです。1990年代後半に顕在化した我が国の金融危機の後始末に一応の目途が立ち、金融庁として金融規制の質的な向上を図らなければいけないフェーズになった時期です。①金融システムの安定・信用秩序の維持、②利用者保護・利用者利便の向上、そして③市場の透明性・公平性の確保、という3つの行政目的を実現するという金融当局としての使命はいつの時代も変わりません。しかし、それをどういう手法で実現していくかは、時代に適合させる必要があると考えました。そこで導入したのが、ベター・レギュレーションというイニシアティブでした。ルール・ベースの監督とプリンシプル(原理・原則)ベースの監督を最適に組み合わせる、というのはその柱のひとつです。

八田進二教授の「佐藤隆文氏との対談を終えて」

佐藤氏が東京証券取引所自主規制法人(現・日本取引所自主規制法人。以下、「同法人」)理事長在任中に遭遇した、「東芝会計不正事件」では、監査法人監査の信頼性に多くの疑念が寄せられたのである。それを受け、同氏は、監査法人の意見があたかも無謬性を備え、神聖不可侵であるかのような前提を置いていることを憂え、「監査法人の意見を無条件で絶対視するのは資本市場のあり方として危険なことだ」と警鐘を鳴らされたのである。その背景には、東芝の同一期の決算について二つの大手監査法人の見解が異なるものとなって議論が混乱した、という事例もあったのであろう。それに対して、私自身、監査論研究者の立場から、当時、制度上は、野球の審判が絶対なのと同様に、「監査意見は絶対ということになっている」との視点を示すとともに、監査法人が説明責任を果たす場面が許容されていない制度上の限界について指摘したのである。

その後、佐藤氏が示された監査意見に対する注意喚起もあって、無限定適正意見以外の監査意見が表明された場合には、監査人は監査報告書において「意見の根拠を十分かつ適切に記載」する実務が導入されたのである。

また同氏は、金融庁長官在任時に、金融規制の質的な向上(ベター・レギュレーション)の実現にとっての柱として「ルール・ベースの監督とプリンシブル・ベースの監督の最適な組み合わせ」を主導したことで、その後の当局の基本的な考え方として根付くこととなったのである。このように、同氏は「資本市場の品格と活力を高める」ための土台に、責任ある立場の者による説明責任の必要性を力説されている。その前提には、プリンシプル・ベースの規律が想定されており、同法人による企業不祥事関係のプリンシプルの策定に具現化されている。

それは、企業の健全な規律づけの基本とされる「コーポレートガバナンス・コード」にも相通じる考え方であり、今回の対談でも、そうした視点での活力ある企業ガバナンス構築に向けた多くの示唆を得ることが出来た。

第4回「佐藤隆文×八田進二」#2に続く

八田進二教授 佐藤隆文氏(右)

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