ガバナンスを機能させるのは“不断の努力”でしかない【ガバナンス時評#3】
社外取締役が“お客さま扱い”になってはいないか
近年、これまでの日本の企業社会ではごくわずかな数しか存在しなかった「女性社外取締役」の選任がブームになり、限られた人材をめぐる獲得競争まで起きているとの声もある。なかには経営監督の能力ではなく、「世間に名前が通っているか」を基準に人物を選ぶことで、話題作りのひとつとしているような企業もあるようだ。
男女に限らないが、本当に社外取締役の役割をどこまで理解しているか、指名される側も、指名する側にも疑問は残る。重大な役割と責任を負うポジションであること、会社の情報を得られる仕組みが整っているかを確認することを十分理解して引き受け、依頼する必要があることは言うまでもない。
「先生方はお忙しいでしょうから、月に1回の取締役会にお越しいただければ結構です。後は会社側でやりますから……」
こんな “お客さま扱い”、あるいは“名義貸し”が罷り通るような企業において、ガバナンスが機能しているとは到底考えられないのである。
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本格的な内部統制議論の萌芽となったCOSO発足から35年余、コーポレートガバナンスの概念を掲げた英キャドべリー委員会報告から30年余、そして米SOX法制定から20年余――。この間、ガバナンスが射程とする領域は広がりこそすれ、狭まることはなかった。
日本企業、特に上場企業においても、「コーポレートガバナンス・コード」(2015年)の策定などを機に、官主導の側面はあるものの、ガバナンスへの理解が深化してきたことは確かである。そして、本サイトの対談企画に登場いただいている方々のように、日本企業におけるガバナンスの在り方を問い続ける声が高まっていることも確かである。
その一方で、ガバナンスの綻びどころか、不在すら象徴するような企業不祥事・不正が後を絶たないのも現実である。そこには上場企業にとどまらず、日本大学やジャニーズ事務所といった学校法人や芸能事務所も含まれる。ガバナンスについて調査、研究、そして提言してきた身からすれば、落胆する毎日というのが偽らざる気持ちである。
そもそも、その企業や組織でガバナンスが健全に機能しているのか否かを“平時”に見極めることは難しい。ガバナンスが機能しているから“非常時”を回避できているのか、不祥事や不正が隠蔽されているから“かりそめの平時”を保っているのか――。残念ながら、危機そのものが到来しないと、解けない疑問である。
逆に言えば、自らの企業・組織のガバナンスを不断に再確認し、そして再構築し続けることこそ、求められていると言える。本連載がそうした不断の努力の一助になることを願うばかりだ。次回#4からは、時々の時事問題を取り上げながら、私なりの「ガバナンス時評」を綴っていきたいと思う。
(次回#4に続く)
取材・構成=梶原麻衣子
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