米SEC初代委員長に相場師ケネディ就任の教訓
(#14から続く)自民党・安倍派を中心に浮上したパーティー券の売り上げノルマ超過分をキックバックとして自らの懐に入れ、収支報告書に記載していなかった問題で、自民党は「政治刷新本部」を設置し、1月25日、中間とりまとめを決定した。
派閥の収支報告書の提出に外部監査を義務付ける、会計責任者が逮捕・起訴された場合に議員を処分できるよう党則を改正する、政治資金パーティー収入は基本的に銀行振り込みにする、収支報告書をオンラインで提出する……といった内容が並び、政治資金規正法の改正などの法整備を速やかに進めるとしている。また、派閥については、”カネと人事”から決別して「政策集団」に昇華させるため、政治資金パーティーの開催を禁止したり、「もち代」「氷代」といった議員への活動費配布を禁止したりするなどとしている。
前回#14で、私は、これはともすれば「集団万引きに手を染めた人間が万引きを取り締まる方法を考えさせるに等しい」と断じた。これまでの政治資金をめぐる長い歴史を見るに、今回も「泥棒に追い銭」になりかねないものと大いに危惧するところだ。ただ、万引き犯が心を入れ替えて「絶対に次の万引きを許さない」姿勢で臨むのであれば、意味があると言える。
これには前例がある。1934年、アメリカで証券取引委員会(SEC)を設置する際、時のフランクリン・ルーズベルト大統領は初代委員長にジョセフ・ケネディを任命した。ジョン・F・ケネディ大統領の父親である。これ以前のアメリカの証券市場は、インサイダー取引など当たり前という無法地帯に等しい状況だった。内実は好況で覆い隠されていたが、1929年の世界恐慌で破綻、数々の不正が露見することになった。
そこで米SECは投資家保護のため、証券取引法規を管理する国家行政機関として創設されたわけだが、そもそもケネディは、当時、胡散臭い証券会社を経営し、相場を見る能力で巨万の富を得た人物だった。相場操縦やインサイダー取引、脱税に手を染めていたと言われる。そのため、初代委員長にケネディが座ったことに疑問の声も多く上がったが、抜擢の理由は、まさにそこにあった(ルーズベルトへの巨額の政治献金もあったというが)。つまり、証券取引における違法すれすれの手練手管を身に着けていたからこそ、逆に、証券取引法規を厳格に管理・運用できると見込まれたのである。
こうした例もあるのは確かだ。大事なのは「何をやるか」であって、政治資金規正法違反の疑惑のある自民党の議員たちによって、今回こそ、本当に透明性のある信頼できる政治資金制度が確立できるのならば、ある意味、禍を転じて福と為すと言えるかもしれない。
とはいえ、現代社会においては独立性、客観性、公正性の観点からそんなことは許されないだろうし、今の議員たちから「不当な会計処理やキックバック行為を心から反省し、もう二度と疑惑を招く行為を行えない制度を確立する」との覚悟も見えてこない。もし本当に実効性のある法改正とするのであれば、議員本人の連座制は最低限、必要だろう。さらに、第三者機関による政治資金の監査、パーティー券購入の収支報告書記載の額を20万円から引き下げることも、当然、必要になる。