NHK「記者30万円不正経理」に“またか!”の既視感【ガバナンス時評#9】
NHK事務局の“介入”を交わして作成した最終報告書
その後しばらくして私は、当時NHKの経営委員会委員長を務めていた古森重隆氏(元富士フイルムホールディング会長)から、「経理不正の問題だけでなく、引き続き広くNHK組織全体のガバナンスに関する検証をお願いしたい」との依頼を受けることになる。そこで再度、「第2次コンプライアンス委員会」が設置され、再び委員長を拝命することとなった。
この時は、委員に任命された5名の方々と手分けをし、全国各地にあるNHKの支局に足を運び、実地調査を行うことにした。こうなると、NHK側は途端にまるでお役所のごとき振る舞いを見せることになる。どこへ出張に行くにも、初乗り120円の地下鉄切符の領収書まで提出しなければならない煩雑さを要求される有り様だった。
また、委員会としては、ざっくばらんに直接職員から日頃の支局での働きぶりや、その思いを知りたかったにもかかわらず、事務局側には「いつどこにどの支局に行って、どの職員にどのようなことを聞くか」まで先んじて教えるようにと促された。当然、これでは調査にならないので、そんな介入を交わすのに一苦労した。
かと思えば、明らかに非協力的な態度を取る職員もいた。やはり「内部統制=締め付け」と思い込んでいる職員も少なからず存在し、それによってモチベーション低下を招いている例もあった。
組織全体として、ガバナンスやコンプライアンスが根本的に理解されていないことが、あらゆる場面から伝わってきたのである。
こうしたカルチャーギャップを随所に感じながらも、第2次コンプライアンス委員会は2008年に最終報告書を公表した。興味のある方はぜひお読みいただきたいのだが、調査の過程ではNHKそのものの組織風土からの改革が必要であることを痛感したと同時に、若手職員からは「NHKはこのままではいけない」という強い危機感を感じもしたのである。
NHK第2次コンプライアンス委員会・最終答申――NHKのコンプライアンス体制確立に向けて
https://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/compliance/kouhyou/081028-2.pdf
これは最終報告書にも書かれているように、将来に向けた明るい希望でもあった。そして実際に、提言後はNHK内部の人々から「NHKは変わりました」との声を聞いてもいたし、その後も不祥事は散発的に発覚してはいたものの、以前よりは風通しの良い組織であろうとするNHKの姿勢は外からでも窺えた。ただし、「しばらくの間は」だった……。
そして2023年。残念なことに、2004年の業務点検・経理適正化委員会の設置から19年、第2次コンプライアンス委員会の最終報告から15年経ち、再び経理不正でNHKが問われる事態となってしまったのである。
(この項つづく)
取材・構成=梶原麻衣子
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