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SOMPOHDは「損保ジャパン」をなぜ監督できなかったのか【ガバナンス時評#8】

子会社を監督する親会社の責任

金融庁が11月7日、SOMPOホールディングス(HD)に立ち入り検査を実施した。子会社の損害保険ジャパンが中古車販売大手、ビッグモーターによる保険金の不正請求を把握しながら、取引を再開。すでに金融庁は9月19日時点で損保ジャパンに対する立ち入り検査を始めており、今回、親会社の監督責任が追及されている格好である。

そこで、前回の#7に引き続き、この問題を改めて考えてみたい。

周知の通り、損保ジャパンの白川儀一社長は9月8日の記者会見ですでに引責辞任を表明しているが、SOMPOHDの櫻田謙悟会長兼グループCEO(最高経営責任者)は「(調査委員会の報告がまだなかった記者会見の時点で)辞任の可能性はない」としていた。しかし、今回の金融庁による立ち入り検査の結果次第では、櫻田会長の進退に関わってくるのは避けられないであろう。

そもそも、指名委員会等設置会社の親会社の取締役会は子会社に対してどのような責任を負っているのか。会社法第416条1項1号ホにはこうある。

〈執行役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備〉

つまり、SOMPOHDの取締役会は、子会社である損保ジャパンの業務が適正になされるかどうか、内部統制が機能しているかどうかをチェックし、不備があれば体制を整える義務を負う。しかも、白川社長はSOMPOHDの執行役(国内損害保険事業オーナー)である一方、櫻田会長は子会社、損保ジャパンの取締役でもある。

社外調査委員会の中間報告書にあるように、2022年7月の役員ミーティングを受けて損保ジャパンは、ビッグモーターとの取引再開を決定していった。これは第一義的には、損保ジャパンの白川社長の責任である。

しかし、子会社の中でなされた意思決定について「業務の適正」が図れていなかった点においては、親会社であるSOMPOHDの責任は免れない。つまり、グループCEOである櫻田氏も最低限、「自身にどの程度の責任があるか」を把握し、自覚する必要があったはずなのである。繰り返すが、櫻田氏は損保ジャパンの取締役でもあるのだ。

子会社が取引している会社に重大な問題があった場合、その対処について、親会社も含めて情報が共有され、さらに取締役会にあげられることこそ、「内部統制が効いている」ことの証左になる。しかし、日本の企業は往々にして「子会社の問題は子会社内部で片づけるべき」と勘違いしているように見受けられる。SOMPOHD・損保ジャパンにおいても、そうではなかったか。

違和感を覚えた櫻田会長の「パーパス」発言

9月の記者会見を思い出すに、櫻田会長については、もう一点、気になることがあった。

櫻田会長は記者からの「組織文化を変えられるのか」との質問に対して「個人と会社のパーパスを一致させる必要がある」と高邁な理念を述べていた。「パーパス」とは、自社の存在意義ないし目的を明確にするという意味で用いられるビジネス用語で、近年、ビジネスパーソンの間で急速に流行している。しかしながら、あの会見の場でそうした歯の浮くような言葉を持ち出したことには、率直に言って、違和感を覚えた。

経済同友会代表幹事を務めた櫻田会長自身も近年、ことあるごとに「パーパス」を企業理念に掲げており、現在もSOMPOHDの自社サイトの「トップコミットメント」には〈「SOMPOのパーパス」を経営の軸に据えることをグループ全体で合意して、社員一人ひとりへの浸透を図ってきました〉と謳っている。

しかし、そもそも日本の企業社会において「パーパス」という言葉にどれほどの実体が伴っているであろうか。何よりも、会社の信用失墜を招く不当な行動を起こしてきたことから、社の組織改革を行い、悪しき文化を払拭できるのかと問われている場面で、次元の異なる「パーパス」という言葉を持ち出すこと自体、問われている問題の重大性を理解していたのであろうか。むしろ、その言葉によって、経営自体が地に足がついていない印象を世間に与えたのではないか。そして、現実問題として、損保ジャパン、SOMPOHDは尻に火がついているのである。

”ガバナンス先進企業”とされてきたが……

ところで、SOMPOHDは2019年6月に指名委員会等設置会社へ移行し、〈経営の監督と業務執行を分離することで、取締役会の監督機能の強化および執行部門への大幅な権限委譲による業務執行の迅速化を図っています〉(同社ホームページ)としている。外形的には”ガバナンス先進企業”と言える機関設計が採用されている。

一方、先に触れた通り、櫻田氏は会見で自身の経営責任を問われ、「現時点で辞任の可能性はない」としているが、こうも述べている。

「私自身が判断すべきではない。調査委員会、その後の指名委員会の結果を待ちたい。今すぐ辞めるわけにはいかない」

辞任するか否かが問題なのではない。経営トップによるこうした他力本願的な発言の延長線上にこそ、今回のような問題が発生する根源的な原因が潜んでいるのではないだろうか。

(次回#9に続く)

取材・構成=梶原麻衣子

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