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長岡花火を見て考えた「オルツ」の粉飾決算【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#24】

【Red flag 3】監査法人の交代

22年に循環取引の疑いがあることを指摘され、監査を継続できないとして監査法人が交代になった。にもかかわらず、VCや主幹事証券などは、オルツの経営幹部より、前監査法人は循環取引と認定してはおらず、売り上げの実在性は認めたとの虚偽あるいは矮小化した説明を鵜呑みにした。

【Red flag 4】販売先と外注先が同一であり、合理性のないバーター取引の存在

そして、販売先が同時に外注先にもなっている取引先が存在していた(バーター取引)。もちろん、ある取引先に特定の業務を発注し、同時にその取引先から別の業務を受注する場合は実務上も生じることがある。

しかし、本件ではそのような実体があるとは考え難いバーター取引の疑義があったが、主幹事証券もそれを認知しながら、オルツの経営幹部が改ざんした資料を受け取る以上に、疑義を契機として深度のある調査等には及ばなかった。

さらに東証上場審査部に対しては、広告伝費と研究開発費について、あたかもその使途において支出していたかのような説明をしたり、監査法人の交代につき「監査法人の(指摘していた)当時の課題はすべて改善されている」などと事実と反する説明をした。

不正を実行した者は自らの行為を隠蔽したり、過小評価・歪曲化したりするなど、正常性バイアスが働くことはよく知られている。かかる状況で、不正が疑われる事情に関与した経営幹部に確認・説明を求めることで足りるといえるか(それ以外の関係者に調査・確認するなどが必要ではないか)などの幾つかのRed flagが認められる。

これらのRed flagをそれぞれのゲートキーパーが認知したのか、認知したとしてその調査・確認をどのようにしたかが重要ポイントと考えられる。

健全かつ職業的懐疑心に立ち返った監査・審査を

長岡花火に話しを戻そう。

その目玉で幅2キロに及ぶ「復興祈願花火フェニックス」(フェニックス2025)は、長岡市も襲った中越地震(04年10月23日)からの1日も早い復興を祈願した花火だが、8月2日当日、点火に向けたカウントダウンが2回で止まった。

実際の会場では「安全確認をしている」とのアナウンスが流れたが、翌日、自宅に帰って録画していたNHKBSチャネルの花火大会映像を観たところ、幅広く花火を点火するので、地上で火事となる危険箇所が生じており、大会委員である花火師がその点検・対策等を検討しているのだろうと解説していた。プロの花火師たちも、打ち上げを成功させるため、周到な準備をした上でさらに入念な確認をしているのだ。

主役の花火が天空で輝くことができるように入念に準備して本番に臨む花火師と同様、グロース市場への上場を目標とするAI業界やスタートアップのIPO(新規上場)にかかわるゲートキーパーも、上場した企業が資本市場のブレーヤーとして活躍できるような企業であることを市場に保証できるように慎重に業務を遂行することが求められているではなかろうか。

SaaS型ビジネスを展開するベンチャー企業では成長ストーリーを策定しやすい反面、現実に商品等の移動を伴わないため、証憑の確認や監査等が容易ではない面も否定できない。しかし、売上成長率だけでなく、営業キャッシュフローなど事業の健全性を示す指標を採用し、併せて、特定の取引先に依拠する割合、解約率の低さ等の視点も加味するなど、多角的な検証も可能なはずだ。

資本市場の信頼性を担う、市場のゲートキーパーとしての役割を如何なく発揮できるよう、自らの監査、審査等の経験などをアップデートしつつ、健全な懐疑心、職業的懐疑心を発揮して1社ずつ、地道に業務の遂行を積み重ねていくほかはあるまい。

長岡の花火に、そんなことを考えてしまった。

(隔週木曜日連載、#24は8月7日公開予定)

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