オルツ事件と酷似しているFOI事件
オルツの調査報告書は公表翌日の7月29日に目を通したのだが、それは同社に関係する事項でクライアントから相談を受けたことがきっかけだった。そこで筆者が直ちに想起したのが、15年超前に東証マザーズ市場(当時)で生じたエフオーアイ(FOI)事件だ。
半導体製造装置メーカーのFOIは、上場直前期において売上高の97%超、金額にして115億余円を架空売上として計上するなど、大規模な粉飾決算を繰り返しながら、監査人による会計監査、引受証券会社による引受審査、証券取引所による上場審査の三重のチェックをすべてすり抜けて虚偽記載のある有価証券届出書を提出して、09年11月にマザーズに上場を果たした。
その後、内部告発により粉飾に関する情報を認知した証券取引等監視委員会による強制調査を契機に、半年足らずの10年5月に上場廃止が決定、翌6月には上場廃止となり、破産手続開始申立てをして破綻した。
オルツも、調査報告書によると、売上高の約9割が実体を伴わない架空計上であり、会計監査、引受審査、上場審査をすべてすり抜けてグロース市場に上場した。また、監視委が粉飾に関する情報を認知してオルツに強制調査に入り、民事再生手続開始申立てがなされ、取引所によって8月31日の上場廃止が決定。上場から1年足らずで市場からの退場を余儀なくされる。
FOI事件では、VCや投資家が、経営陣、監査役、監査人(監査法人)、元引受証券会社、東証などを相手として金融商品取引法、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。
監査法人と監査役の一部は訴訟の中で和解したものの、和解しなかった社外監査役は損害賠償を認める判決で責任を問われ、主幹事証券も最高裁により金商法上の損害賠償責任を免れることが極めて難しい判断を言い渡された。そして、不正会計を企図・実行していた社長、専務取締役らには、金商法違反の民事・刑事などのエンフォースメント(法執行)が課された。
調査報告書によると、オルツの大胆な架空計上は、VCや主幹事証券会社とのやり取りなどの中で、CEO(最高経営責任者)・CFO(最高財務責任者)ともに、粉飾スキームの策定、資料の偽造などを認識・容認している事実が認められ、FOIの代表者らと同様に、刑事責任が問われる事態へ発展することが予想される。
関係者は「不正を強く疑わせる事情」(Red flag)を認知し得たか
そこで問題となりそうなのは、オルツに「不正を疑わせる事情」(Red flag)があるか、あるとして、それを認知することができたかという点だ。実際、オルツの粉飾には以下のようなRed flagがあったように考えられる。
【Red flag 1】売上高は伸びているのに営業キャッシュフローは巨額マイナス
オルツのようなSaaS型ビジネスモデル(顧客にオンラインでソフトウェアを利用させるクラウドサービス。通常、サブスクリプションペースで提供される)では、顧客が増えれば固定収入が堅調に上昇することになるため、売り上げが順調に伸びている(23年12月期比プラス4億8780万円余)状況なのに営業キャッシュフローがマイナスになることは考え難い。それにもかかわらず、営業キャッシュフローが巨額なマイナス(24年12月期で24億1942万円のマイナス)になっている。
【Red flag 2】広告宣伝費45億円超の合理性と、見合った成果物は?
売り上げが60億5728万円余であるのに対して、広告宣伝費として、売り上げの75%超もの割合となる45億8040万余円を投じていることに合理性があるのか。また、そんな巨額な広告宣伝費を投じた結果としてテレビ、ラジオ、ネットなどでの成果物としての広告をほとんど見かけなかったことに不自然さはなかったのか。