JAL、ANA、日本空港ビル「3大株主」による株式併合議案の承認
日本航空(JAL)の持ち分法適用会社で東証スタンダード上場のエージーピー(AGP)が6月26日に開催された定時株主総会で、JALが提案していた株式併合議案が可決され、非公開化されることが確定的となった。
JALの提案は、AGP株式の29.59%を有するJALと、17.76%を保有するANAホールディングス(ANAHD)、23.79%を保有する日本空港ビルデングとが組んで、AGPの123万5700株を1株に併合し、大株主3社以外の少数株主の保有株は1株未満の端数として強制的な買い取り対象として、株主をこの3社に絞り込んだうえでAGPを上場廃止にするというものだ。
会社法では、株式併合は株主総会で議決権を行使した株主の3分の2以上の賛成が必要とされる特別決議事項だが(会社法309条2項4号)、合計で70%超を保有する大株主3社が組んで事前の想定どおり可決された。
今後は、1株未満の端数について裁判所が認可したうえでAGP側が少数株主に端株の買取代金として総額約50億円を支払うことになる。
少数株主のスクイーズアウトの手段として定着した株式併合
かつては限定的・抑制的にしか認められていいなかった株式併合は、平成17(2005)年の商法改正に伴う会社法の制定(06年施行)・平成26(13)年改正で、少数株主のスクイーズアウト(株主の締め出し)に利用しやすい制度として実務に定着した。
しかし、持ち分法適用会社であるとはいえ、JALが、ANAHDなどと連携・共同して株式併合を強行したことには驚きを禁じ得ない。なぜ、JALが株式併合をAGPの定時株主総会に株主提案をして、同社を急いで非公開化する必要があったのか、今もって、その経緯や意図は必ずしも明確ではないように思われる。
というのは、JALは、今年3月のコーポレートガバナンス報告書では、AGPにつき「上場により、資金需要に対応した経営資金の自己調達能力の強化を実現することで、企業価値を高めることを目指し、……株式会社エージーピーが当社の関連会社であることは、同社の健全な発展につながる」としていたからだ。
にもかかわらず、翌4月になって、AGPが近年、独立した上場企業であることを理由に「大株主を含む全ての株主に対する情報提供の平等性を厳格に徹底するという立場から、当社(筆者注:JAL)を含む大株主との個別の対話を控える」ようになり、「当社と少数株主との間の利益相反構造を過度に強調する」あまり、JALとAGPとの間で、「AGPの経営方針や事業戦略等に関する株主としての一般的な対話さえ行うことが困難な状況」となっているため、AGPを非公開化して「潜在的な利益相反構造を解消した上で、効率的なガバナンス体制を新たに構築し、……社会インフラを支える公器として持続可能な成長を図る」と急遽、変更した。
しかし、JALのリリースによると、JAL、ANAHD、日本空港ビルは、それぞれAGPに取締役と監査役を1名ずつ「派遣し(送り込んで)」いるとのことであり、そのような人的・出資的に密接な関係がありながら、なぜ一般的な対話さえできない状況に陥ったのか、開示された資料には納得できる合理的な説明は見当たらない。
また、スクイーズアウトの意義として、JALはリリースで、①脱炭素への取り組み強化、② 経営資源の集中、③人材不足への対応を挙げている。一方、AGPは、⒜脱炭素のための非公開化という主張には合理性がない(上場維持のままでも可能)、⒝TOB(株式公開買い付け)から株式併合へ切り替えられた理由の説明もない、⒞価格に合理性がない(1550円という買取価格は、AGPが起用した第三者算定機関による最小評価1710円を大きく下回る金額である)と反論している。このやり取りだけでいうと、JALの説明は納得が得られるようなものにはなっていないように思える。
特に⒞については、豪金融グループのマッコーリーが1株2015円でAGP全株を取得するTOBを提案した段階では、JALが提示していた1550円という買取価格は合理的でないことがより明確になったと考えられ、JALはAGPの少数株主の利益を図るための措置を改めて検討し、説明することが求められていたはずである。
しかしJALは、今年1月にJALがAGPにTOBを提案したものの、AGPが協議自体を拒んだとして、株式併合の議案を定時株主総会に諮る予定を撤回しないとの意向を示した。AGPは少数株主を排除しようとするものであると、これに反発し、マッコーリーのTOB提案を比較検討する時間を確保するため、継続会を開催する動議に株主が賛同することを求めたが、JALは株主提案を撤回しない意向を引き続き示した。
JALが提案した株式併合により少数株主に支払う対価1550円と、AGPが起用した第三者算定機関による最小評価額1710円や、マッコーリー提示のTOB価格2015円の落差が明らかであるにもかかわらず、買取価格を維持したまま、株式併合を進めたJALの頑な姿勢は、同社のレピュテーションの毀損にもつながりかねない。なぜ、そこまでこじれた関係になってしまったのだろうか。
さらに筆者が違和感を覚えたのは、JALがTOBを実施せずに株式併合を強行する株主提案について、「複数の権威ある会社法学者」(JAL今年6月6日リリース)から公正性の観点で問題はないとの意見をもらっていると説明して、正当化しようとした姿勢である。