presented by D-QUEST GROUP

IRジャパン「再び証取委の強制調査」と他者に学んだ南ア大統領のトランプ対応のコントラスト【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#19】

24年3月期の有報は、「リスク発生の可能性」「発生した場合の影響度」についての評価を設けたことと、グループコンプライアンス室を設置したこと以外は、22年3月期、23年3月期の有報の〈(7)コンプライアンスリスクについて〉をほぼそのまま踏襲した記載になっている。率直に言って、自社で生じた経営幹部(副社長)によるインサイダー取引規制違反の事案を考慮して、IRJがリスク管理体制を見直した(高度化した)ことは窺われない。

もちろん、有報の限られたスペースでは、記載を概略にとどめざるを得ないことは理解できる。しかし、上場企業の未公表や重要情報を扱う会社としては、そのビジネスモデルで生じた金商法(インサイダー取引)違反の不祥事について根本まで遡った原因分析を行い、実効的な再発防止策を構築し、二度と同じ過ちを犯さないことをコミットすることが求められる。

少なくとも、有報を通じて市場がそれを感得できるような記載があってもよいのではなかろうか。

課題山積の中でトランプ大統領に臨んだ南アフリカに“学ぶべきこと”

トランプ大統領とラマポーザ大統領の会談の話に戻ろう。

トランプ大統領は、南アが過去のアパルトヘイト(人種隔離政策)を是正するために土地改革を行っていることなどや、昨年、イスラエルをパレスチナ自治区ガザで虐殺を行っているとして国際司法裁判所に提訴したことを非難している。さらに、米国から「相互関税」として30%という高水準の関税を表明されている中で、ラマポーザ大統領はトランプ大統領との会談を迎えた。

トランプ大統領から厳しい発言が出ることを想定して、なお、ゼレンスキー大統領のときのように激しい口論とならずに会談を円満に進めるためにどのような準備をすべきなのか、南アは3カ月間に相当のリソースをつぎ込んで準備をしたはずだ。南ア代表団のリスクマネジメント戦略は、ビジネスでも通底するところがある。

IRJに限らず、企業は同じ不祥事を繰り返さないため、自社のビジネスモデル、固有の歴史、置かれている周辺環境、経営戦略などを勘案して、リスクの発生可能性(リスクが顕在化する可能性)と影響度(顕在化した場合に及ぼしうる影響度)を見直し、リスクを適時的確に認知する必要がある。

そして、迅速に対応する観点から、リスクの管理体制を高度化するとともに、その実効性を図るため、企業のすべての階層の役職員がリスク情報を共有するためのコミュニケーションを図ることが求められる。

このような実効的なリスク管理体制の整備とあわせて、行動規範を全役職員、全階層に浸透させることを車の両輪として継続することも重要である。

他者(ウクライナ)の経験に学んだのであろう南ア。一方、監視委による強制調査の行方はまだ不透明だが、IRJは自ら(自社)の経験に学ぶことができていたのか。その答えは、早晩、明らかになるだろう。

(隔週木曜日連載、#20は6月10日公開予定)