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JR西日本・福知山線脱線事故の20年、経産省「企業買収指針」策定の20年【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#18】

20年前から「会社法制」に関わってきた経産省

話は変わるが、13年に「日本再興戦略」の閣議決定を経て経済産業省と金融庁が東証とタッグを組み、スチュワードシープコードおよびコーポレートガバナンス・コードを策定した。これを嚆矢として「コーポレートガバナンス改革」は始まった。

稼ぐ力を取り戻すため、経営者による適切なリスクテイクを後押しするため、その後も、両コードの改定・再改定、コーポレート・ガバナンス・システム(CGS)研究会報告書、事業再編ガイドラインの策定、そして「攻めのガバナンス」の提唱などを間断なく推し進めてきた。そして、これらが上場企業のガバナンス改革に相当の影響を与えていることは周知のとおりだ。

筆者が注目するのは、経産省が、上記とは別に、ガバナンスに隣接する「企業買収」というテーマに関しても指針やガイドライン等を策定している点だ。19年6月の「公正なM&Aの在り方に関する指針」(公正M&A指針)、23年8月の「企業買収における行動指針」(買収行動指針)などがそれに該当する。

そして、それに先立つ15年近く前の05年5月の「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(買収防衛指針)も、法務省との連名となっているものの、実際は経産省が主導して策定されたものである。

つまり経産省は、13年のコーポレートガバナンス改革に先立つ20年前から、指針やガイドラインを策定する形で会社法制に関与するようになっていたといってよいだろう。

現実は緩い運用に…経産省「買収法制に関わる指針」等の問題点

経産省による企業買収に関する指針やガイドラインは、企業買収の局面で生じた紛争が司法の場で争われた場面でも、裁判所が紛争解決のために示す判断枠組みでも参照され、さらには組み込まれている。そのような意味で、企業買収に関わる法律や政省令と実質同様な取り扱いがなされている。

例えば、総会決議に基づく買収防衛策としての新株予約権無償割当てに関する最判平成19年8月7日決定の「ブルドックソース事件」では買収防衛指針が参照され、2段階買収手続きによる完全子会社化取引に関して株式併合に反対した株主らが株式を公正な価格で買い取るよう請求して争った東京地判令和5年3月23日決定の「ファミリーマート事件」では公正M&A指針が参照されている。

しかし、事実上、紛争解決基準として機能している点に注目すると、経産省が策定する指針等には問題点があるように思われる。