“イノベーター”一条ゆかりに学ぶこと
一条ゆかりに話を戻そう。
一条ゆかりが描く漫画には、精緻な背景やメカニックの絵など、当時の少女漫画では描かれることがなかったコンテンツが登場してきた。そして、そうしたメカニカルな描写は、「りぼん」の新人賞をとった時からの仲間である弓月光(「甘い生活」)、新谷かおる(「エリア88」)、聖悠紀(「超人ロック」)ら3氏の「メカ3兄弟」の貢献が大きかったという。
これを敢えて社外取締役に当てはめて言えば、それぞれが互いを補い合う「スキルマトリックス」を備えていたということか。
また、一条ゆかりは当時の少女漫画のメインストリームだった「ロマンチック・コメディ」路線には安易に乗らず、広告業界が舞台の「5愛のルール」や、少女が精神を病んでいくシリアスな「果樹園」、新創刊の大人向け女性誌『コーラス』(集英社)では身も心も溺れる恋を描いたり、下品さやオカルトも織り交ぜた前例のないアクション・コメディに仕上げた代表作「有閑倶楽部」と、さまざまなジャンルに挑戦してきた。さらには、不評の場合は“即打ち切り”の条件で、編集者との打ち合わせなしで連載を描くという大胆な手法までやってのけたことが「私の履歴書」では綴られている。
これを企業に当てはめると、大胆な「ポートフォリオの組み替え」と言えまいか。
当然ながら、企業経営のイノベーションといっても、完全に新規なものばかりではない。これまでは“経験”とか“感”など(という「暗黙知」)に頼って進めていたビジネスを、暗黙知を見える化して共有可能な「形式知」に変えるとともに、データで裏打ちされた経営戦略(その変更も含む)とすることで、イノベーティブなビジネスを展開している企業が幾つも市場に登場している。
経営者と漫画家――。ジャンルは違っても、イノベーターとしての一条ゆかりに学ぶことは多いはずである。筆者の“牽強付会”に同感できない読者も多数いることと思うが、このような視点で毎朝、「私の履歴書」に目を通すことは筆者にとって日々の楽しみのひとつである。
(隔週木曜日連載、#14は 3月21日公開予定)