一条ゆかりの日経「私の履歴書」と“企業価値の持続的な向上”【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#13】

遠藤元一:弁護士(東京霞ヶ関法律事務所)

鮮烈な、少女漫画家・一条ゆかりの「私の履歴書」

「わが人生に悔いなし」

さる2月、1カ月に及ぶ日本経済新聞の名物コーナー「私の履歴書」で、一条ゆかりさん(以下敬称略)が最終回で残したメッセージだ。

古くは、宮本武蔵の名言「我事において後悔せず」の現代風な表現だが、1980年代の人気漫画「北斗の拳」に登場する、主人公ケンシロウの宿敵ラオウが戦いに敗れ、絶命する前に叫んだ「わが生涯に一片の悔いなし」のセリフを想起する読者も多かったのではないか。最近では2019年1月、横綱稀勢の里が現役引退の際に語った「土俵人生に一片の悔い無し」という言葉も、ラオウに自らを重ねての吐露だったのかも知れない。

中学生の時からプロの漫画家を目指し、勉強漬けでない、漫画に時間が割ける商業高校に進学すると決めて、母親には事後承諾で認めさせる。高校入学早々につくった“将来の希望と計画”では「漫画家になる予定で、就職活動は自分でやるので邪魔しないで欲しい」と宣言する一方、授業やテストも卒なくこなす。東京への修学旅行の時は「就職活動のため」と学校側から内1日の自由行動を勝ち取り、出版社を訪問。偶然、近くにいた漫画家のアシスタントになる約束まで取り付ける……。

一条ゆかりの「漫画家になる」という強烈な意思、すぐに実行に移す果敢で大胆な行動力と創作への熱いパッション。まるで漫画の主人公そのもののような鮮烈な生き方だ。

そして、デビュー後の「一条ゆかりワールド」がつくり上げられるまでのストーリーにも魅了される。彼女は、少女漫画がまだ“ブルーオーシャン”であった時代に、道徳観念を打ち破って突出したユニコーンのような存在だったといえるだろう。