ゲーム会社vs.アクティビスト「経営者の業績連動報酬」は企業価値創造のインセンティブとなるか【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#12】

万能の処方箋ではない「業績連動報酬」の副作用

しかし、業績連動報酬等のインセンティブ報酬は、次に述べるような副作用もあり、万能の処方箋ではない。これらの副作用に十分な注意をしながら用いることが当然に必要となる。

第1に、業績連動報酬等が「攻めのガバナンス」に必要なものとして位置づけられていることにより、法定あるいは任意の報酬委員会を介して、報酬の高額化がたやすく正当化されてしまう。

オリックスの元会長・グループCEO(最高経営責任者)で今も同社シニア・チェアマンを務める宮内義彦氏が、今から20年以上前に発言した次のコメントはこの点を端的に表している

「むしろ報酬委員会をつくったほうが、日本企業の役員報酬は上がるんじゃないですか。私のストック・オプションも、おそらく一〇倍くらい上がったと思います(笑)。過去に専門のコンサルティング会社にお願いして、『私の報酬はいくらが適当か』を試算させたことがあるのです。その結果は、聞いただけでバカバカしい金額をはじいてきました。目をむくような高額です。『こんな数字は何の参考にもならない』ということですぐやめました。もちろん私は、自分の報酬を自分で決められる立場にありますから、『コンサルティング会社が提示した金額に決めました』と決定できないわけではない。第三者機関がはじいた数字ですから免罪符が張られてあります。しかし、そのような高額な報酬をもらうかもらわないかという問題以前に、会社をおかしくしてしまいます。株主の利益にもならない。」(日本コーポレートガヴァナンス(注・当時の表記)フォーラム『ストック・オプションのマネジメント』[1998年]125頁。

宮内氏の上記コメントについて、会社法研究者である仮屋広郷・一橋大学教授は、現在のコーポレートガバナンス改革が法外な役員報酬に結びつくこと、つまり、現在の改革が良しとしているやり方では、異常に高額な役員報酬をもたらすだけだと評価することを教えてくれるのだ――という厳しい批判的な立場をとっている。

インセンティブ報酬については、このような批判的な意見にも耐え得るような合理的な説明が求められることに留意する必要がある。

また、報酬水準が低い場合は(東証プライム市場に比べるとスタンダード市場上場企業の役員の基本報酬水準は概して低く設定されている)、役員にも最低の基本報酬を確保する観点(基本報酬を引き下げ、収入が不安定になると経営者のモチベーションが低下する可能性がある)から、報酬水準自体を変えずに基本報酬の割合を減少させることは難しい。

英国コーポレートガバナンス・コードの「原則P」では、2012年コードまで用いていた、インセンティブ報酬を促進する文言を14年改訂時に抑制に転じ、さらに18年改訂時にはインセンティブ報酬の文言自体を削除、24年改訂版コードでもそれを踏襲している。

第2に、業績連動報酬は、CEOの報酬を従業員の平均報酬額で除して求める「ペイレシオ」を高めてしまい、従業員の士気にも悪影響を与え、人財の育成にも支障を生じかねない。

特に売上高が高い企業ほどペイレシオが高くなる傾向が見られるため、ペイレシオに影響を受けない人財戦略が要請される。日本の役員報酬は米国企業に比べればなお低い水準にあるとはいえ、ペイレシオを高め過ぎないような対応も求められる。

第3に、社外取締役も、攻めと守りの両面から監督機能を発揮する役割に見合う適切な報酬の設定が必要となり、社外取に基本報酬に上乗せした報酬を支払うべきかを考える際、業績に連動した報酬を支払うことが社外取の監督機能の発揮を阻害する要因となる可能性があり、ガバナンスの観点からは問題がある。

経産省のCGSガイドラインで、社外取締役への株式付与の有効性が言及された点をはじめ、機関投資家においても議決権行使基準の中で社外取への株式付与に賛成するケースが増加している。

しかし、英国コーポレートガバナンス・コードでは以前より社外取締役への業績連動報酬の付与に警告を発しており、直近の24年改訂版で見ると、「規定10」が、取締役報酬とは別に追加報酬、ストックオプション、業績連動報酬を受け取る非業務執行取締役には独立性がないこと、「規定34」が、社外取の報酬にはストックオプションやその他の業績関連要素を含んではならないことを規定している。

日本でも同様の状況であることを想起すべきであろう。

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2023年12月期有価証券報告書の役員欄を見ると、ガンホーには、14年もの間、取締役を務めている社外取締役や、20年以上もの間、あるいは20年近く監査役を務める社外監査役がいることが分かる。

英国コーポレートガバナンス・コード2024年改訂版の「規定10」では、9年超の取締役は独立性がない旨を規定している。ガンホーのコーポレートガバナンスについては、「報酬ガバナンス」の以外にも論点があるかも知れない。

(隔週木曜日連載、#13は 3月6日公開予定)