鳥の目・虫の目・魚の目から見る「公益通者保護法」の再改正【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#5】
内部通報者への「不利益処分に刑事罰」構想の実効性は?
公益通報者に対して公益通報者保護法が禁止する報復措置・不利益処分を公然と行ったと疑われながら、法違反の意識はなかったと繰り返す兵庫県元知事や、元大阪地検検事正が性的暴行を加えながら組織を防衛するため口止めをしていたことが女性検察官の勇気ある記者会見で明らかになるなど、改正公益通報者保護法(2022年施行)の脆弱さが露見する事件が次々と発覚している。
これらが後押しになったのだろうか、消費者庁が、企業や官公庁の不正を告発した内部通報者への解雇や懲戒といった不利益処分に対し「刑事罰」を導入する方針を明らかにした。
ただし、刑事罰導入とはいっても、消費者庁案は、不利益処分を解雇、減給、降格等の懲戒処分に限定。そのうえ、不利益処分禁止に違反した場合の刑事罰を「直罰」ではなく、「間接罰」、すなわち、行政による是正命令に違反する場合に限り、行政罰・刑事罰が適用されるような措置の導入にとどめるものになっている。これらのことが私としては気になって仕方がない。
不利益処分といっても、解雇、減給、降格等の懲戒処分に限らない。昇格を見送ったり、配置転換等で不利益を課したりすることだって、これまで水面下では行われている。
また、刑事罰も、間接罰を導入した場合、実際にそれが機能するのは、①公益通報を理由に不利益処分が行われたことを行政が速やかに検知し、②遅滞なく、当該企業に行政処分を発令し、③その企業がそれを無視してさらなる不利益処分行為に及ぶ場合に限られてしまう(①②③を1つでも満たさないと、企業は何らのお咎めを受けず、また通報者の不利益取扱は是正されないまま放置されてしまう)。
それでは刑事罰により不利益処分を牽制する実効性は期待できず、せっかく導入しても画餅に帰す結果となることが目に見えているからだ。
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